Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
なぜ盗んだの?
朝食の後、シリウスに自宅まで送ってもらい、「本当にお嬢様なんだな……」と唖然とされた。名士の家は白い三階建てで、床面積も町一番だという。使用人もいて、住む次元が違うことを見せつけられた。
「スピカ様!」
中から使用人らしい女性が出てきた。
「知らせを聞いて肝をつぶしました。お怪我は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ。ありがとう」
そう言うと、スピカはちらっとシリウスを見た。
「ありがとう。送ってくれて」
そのまま家に入っていった。
「何か先輩、そっけないね」
「いいよ、ほっとけ」
そのまま西の貧民街に行き、ミラを母親に引き合わせた。
「ミラ! まったくこの子は…!」
我が子を抱きしめると母親は泣き出した。
「よかった……」
「…ごめんなさい、心配させて」
母親の背中に手を回すミラ。
「シリウス、ありがとう。これからどうするの?」
「いったん孤児院に行く。荷物を修行場に持っていくさ」
それはつまり、貧民街から出ていくことを意味する。
「じゃあ、やっぱり……」
紫微垣になる修行を続けるんだ。ミラは心配そうな表情でシリウスを見た。
「さっさと戻らんと、あのじいさんにどやされる。行くぜ」
シリウスは孤児院に行き、院長にあいさつした後は自分の部屋に行って荷物をまとめた。院長には「何てことをしたんだ!」と怒られたが、それ以上はあまり責められなかった。ほかの職員や孤児たちは、遠巻きに見るような目だった。2週間ぶりに会ったというのにずいぶんな対応だな。
この孤児院もスピカの家がスポンサーになって運営しているんだったっけ。そう考えると、あの女にも少しは感謝した方がいいか。
荷物は着替えくらいだし、たいしたものはない。肩に担げる袋に詰め込み、出て行った。
シリウスは奇妙な感覚になっている。北の町の住人のほとんどに目をつけられ、学舎や孤児院からは追い出される羽目になった。多くの人間ならここでやけになって犯罪に手を染めるだろう。しかし彼は意気揚々としている。そんな気分で修行場に戻った。
紫微垣になる――最初は面倒と思っていたことが、自分にとって大切なことになるとは、この時はまだ知る由もなかった。
次の日。ミラとスピカはまた修行場に来た。しかしシリウスはいない。
「アルクトゥルスさん、シリウスは?」
ミラが尋ねると
「港に行っているよ。そろそろ魚がなくなるから釣りに行かせたのだ」
アルクトゥルスは七星剣を手入れしながら答えた。七つの水色の鏡玉を外して磨き、刀身も磨き上げている。この鏡玉は星鏡といって、七星剣に欠かせないらしい。
「じゃあ、私シリウスのところに行ってきまーす」
ミラは駆けだした。港と言ってもかなり広い。見つけられるのかしら? とスピカは首をかしげる。
「彼女はシリウスとは付き合いが長いらしいからな。よく釣りに行った場所も分かるのだろう」
「ふうん」
スピカは生返事をした。アルクトゥルスは七星剣の手入れが終わると、スピカにお茶をいれて「ところで、シリウスの生い立ちについては知っているかね?」と語り出した。
「いいえ」
孤児院に入る前は両親と仲良く暮らしていたそうだ。しかし物心が付く頃に大型台風が北の町を襲った。その台風により両親は行方不明となり、シリウスは孤児となった。
孤児院では当番制で料理や掃除をする。その中で、シリウスは特に料理が得意になった。
「あやつ、普段は愛想がないのに根は素直だ。妙だと思わないかい?」
「ええ、まあ……」
あいまいな返事をするスピカをよそに、アルクトゥルスは続ける。
人間の性格は、おおよそ3歳までに両親をはじめとした大人たちから受けた扱いで決まるという。シリウスの場合、両親から惜しみなく愛情を受けて育ったのだろう。その後、孤児院に入り、両親がいないさみしさから性格がゆがんだように見える。しかし本当はゆがんではおらず、さみしさをごまかしているだけなのだという。
ちなみにベテルギウスは幼い頃に両親が離婚。父親の暴力もあったそうだ。リゲルは生まれて間もなく母親が他界、父親は失踪したらしい。両親の不和や不在が、彼らの性格にひずみとなって現れた。子育ての失敗の典型である。
「シリウスがベテルギウス、リゲルとつるんでいたのは、境遇が似ていたからかもしれないな。ほっとけなかったのだろう」
アルクトゥルスはあごをなでながら話を続けた。
「そうそう、あやつがなぜポラリスを盗むことに加担したかご存じかね?」
「いいえ」
「実はな……ミラちゃんを守るためじゃよ」
「え?」
「ベテルギウスとリゲルから、『ポラリスの盗みに協力すれば、ミラにちょっかいは出さない』と言われたようでな。その口車にまんまと乗ったわけだ。単純で愚かな選択だが、ミラちゃんを守るためにやむをえなかったのだろう。単純さや愚直さは、純粋さと紙一重じゃからな」
それを聞いた瞬間、スピカは胸が締め付けられる思いがした。
(もしかして私…シリウスに言い過ぎたかも。謝った方がいいかな……)
「スピカ様!」
中から使用人らしい女性が出てきた。
「知らせを聞いて肝をつぶしました。お怪我は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ。ありがとう」
そう言うと、スピカはちらっとシリウスを見た。
「ありがとう。送ってくれて」
そのまま家に入っていった。
「何か先輩、そっけないね」
「いいよ、ほっとけ」
そのまま西の貧民街に行き、ミラを母親に引き合わせた。
「ミラ! まったくこの子は…!」
我が子を抱きしめると母親は泣き出した。
「よかった……」
「…ごめんなさい、心配させて」
母親の背中に手を回すミラ。
「シリウス、ありがとう。これからどうするの?」
「いったん孤児院に行く。荷物を修行場に持っていくさ」
それはつまり、貧民街から出ていくことを意味する。
「じゃあ、やっぱり……」
紫微垣になる修行を続けるんだ。ミラは心配そうな表情でシリウスを見た。
「さっさと戻らんと、あのじいさんにどやされる。行くぜ」
シリウスは孤児院に行き、院長にあいさつした後は自分の部屋に行って荷物をまとめた。院長には「何てことをしたんだ!」と怒られたが、それ以上はあまり責められなかった。ほかの職員や孤児たちは、遠巻きに見るような目だった。2週間ぶりに会ったというのにずいぶんな対応だな。
この孤児院もスピカの家がスポンサーになって運営しているんだったっけ。そう考えると、あの女にも少しは感謝した方がいいか。
荷物は着替えくらいだし、たいしたものはない。肩に担げる袋に詰め込み、出て行った。
シリウスは奇妙な感覚になっている。北の町の住人のほとんどに目をつけられ、学舎や孤児院からは追い出される羽目になった。多くの人間ならここでやけになって犯罪に手を染めるだろう。しかし彼は意気揚々としている。そんな気分で修行場に戻った。
紫微垣になる――最初は面倒と思っていたことが、自分にとって大切なことになるとは、この時はまだ知る由もなかった。
次の日。ミラとスピカはまた修行場に来た。しかしシリウスはいない。
「アルクトゥルスさん、シリウスは?」
ミラが尋ねると
「港に行っているよ。そろそろ魚がなくなるから釣りに行かせたのだ」
アルクトゥルスは七星剣を手入れしながら答えた。七つの水色の鏡玉を外して磨き、刀身も磨き上げている。この鏡玉は星鏡といって、七星剣に欠かせないらしい。
「じゃあ、私シリウスのところに行ってきまーす」
ミラは駆けだした。港と言ってもかなり広い。見つけられるのかしら? とスピカは首をかしげる。
「彼女はシリウスとは付き合いが長いらしいからな。よく釣りに行った場所も分かるのだろう」
「ふうん」
スピカは生返事をした。アルクトゥルスは七星剣の手入れが終わると、スピカにお茶をいれて「ところで、シリウスの生い立ちについては知っているかね?」と語り出した。
「いいえ」
孤児院に入る前は両親と仲良く暮らしていたそうだ。しかし物心が付く頃に大型台風が北の町を襲った。その台風により両親は行方不明となり、シリウスは孤児となった。
孤児院では当番制で料理や掃除をする。その中で、シリウスは特に料理が得意になった。
「あやつ、普段は愛想がないのに根は素直だ。妙だと思わないかい?」
「ええ、まあ……」
あいまいな返事をするスピカをよそに、アルクトゥルスは続ける。
人間の性格は、おおよそ3歳までに両親をはじめとした大人たちから受けた扱いで決まるという。シリウスの場合、両親から惜しみなく愛情を受けて育ったのだろう。その後、孤児院に入り、両親がいないさみしさから性格がゆがんだように見える。しかし本当はゆがんではおらず、さみしさをごまかしているだけなのだという。
ちなみにベテルギウスは幼い頃に両親が離婚。父親の暴力もあったそうだ。リゲルは生まれて間もなく母親が他界、父親は失踪したらしい。両親の不和や不在が、彼らの性格にひずみとなって現れた。子育ての失敗の典型である。
「シリウスがベテルギウス、リゲルとつるんでいたのは、境遇が似ていたからかもしれないな。ほっとけなかったのだろう」
アルクトゥルスはあごをなでながら話を続けた。
「そうそう、あやつがなぜポラリスを盗むことに加担したかご存じかね?」
「いいえ」
「実はな……ミラちゃんを守るためじゃよ」
「え?」
「ベテルギウスとリゲルから、『ポラリスの盗みに協力すれば、ミラにちょっかいは出さない』と言われたようでな。その口車にまんまと乗ったわけだ。単純で愚かな選択だが、ミラちゃんを守るためにやむをえなかったのだろう。単純さや愚直さは、純粋さと紙一重じゃからな」
それを聞いた瞬間、スピカは胸が締め付けられる思いがした。
(もしかして私…シリウスに言い過ぎたかも。謝った方がいいかな……)