笑わないで、エミちゃん。
第三話
⚫︎笑美の回想、幼稚園のお弁当の時間
笑美・瑠衣・笑「「「いただきまーす」」」
それぞれがお弁当を広げて、おいしそうに食べる。
笑美「ルイ君のお弁当って、いつも可愛いよね」
瑠衣「お母さん、こういうの作るの好きなんだって」
瑠衣のキャラ弁を、キラキラした目で見る笑美。この頃は元気いっぱいで、いつもニコニコしていた。
笑「俺んちの弁当も、おにぎりでっかくていいだろ!」
笑美「うん、お腹いっぱいになりそう!」
笑「ちょっと、食べるか?」
やんちゃな笑が、おにぎりを掴んで差し出す。それを見た瑠衣が、焦る。
瑠衣「だ、だめだよ!」
笑「えっ、なんで?」
瑠衣「し、笑君はいっぱい食べるから、だから、あげちゃったら、お腹が空くかも」
瑠衣はオドオドしながら、自分の玉子焼きを笑美のお弁当箱に入れた。
瑠衣「ぼくは、たくさんは食べられないから。だから、笑美ちゃんにあげる」
笑美「いいの?」
瑠衣「うん」
笑美「ルイ君、ありがとう!」
満面の笑顔を見せる笑美、瑠衣の目元は隠れ気味で見えないが、嬉しそうに頬を染めている。
笑美「ルイ君ちの玉子焼き、甘くておいしいね!」
瑠衣「次も作ってもらうから、そうしたらまたあげるよ」
笑美「だめだよ、ルイ君の分がなくなっちゃう」
心配そうな笑美を見て、瑠衣は首を振る。
瑠衣「だいじょうぶ、玉子焼きをたくさん入れてもらうから」
笑美「ホント?うれしい!」
笑「笑美ばっかりずるいぞ!俺も食べたい!」
笑美「もう、笑君うるさい!」
割り込んでくる笑を、笑美が手で押しのける。二人がじゃれあっているのを見た瑠衣は、少しだけ胸の奥にモヤモヤが広がるのを感じていた。
(回想終わり)
⚫︎笑美の部屋
(これ、どうしよう……)
テーブルに置かれたお弁当箱を、じいっと見つめる。もちろん、玉子焼きもおにぎりも捨てずに食べた。
(昔食べたのと同じ、懐かしい味がした)
思い出が蘇って少し泣きそうになったことは、誰にも言えない。
なかなか渡せないまま、今は土曜の昼。返さないわけにもいかず、かといって無言のままドアの前に置いておくのはさすがに気が引ける。
(笑に頼んでもいいけど……)
この間の悲しげな笑顔を思い出すと、それも出来ない。
「仕方ない、さっと返して終わろう」
立ち上がり、笑美は隣の瑠衣の部屋へ。
ピンポーン
ガチャッ
瑠衣「えっ、笑美ちゃん!」
学校での完璧な姿はなく、ボサボサの髪とスウェットに、黒縁の眼鏡。
瑠衣「急にこっちのインターホン鳴らすとか、てっきり笑くらいしかいないと思ってて……」
相手も見ずに、ドアを開けた瑠衣。油断していたことにほんのり顔を赤らめながら、必死に髪を手で撫でつける。
瑠衣「まさか笑美ちゃんが来てくれるなんて」
笑美「隣に住んでるのに?」
瑠衣「だって、嫌われてるし……」
今の瑠衣は下がった髪と眼鏡で表情が見えない。話し方も、普段よりおどおどしていて声も小さい。
(なんか、ちょっと懐かしいかも)
転校初日に顔を合わせた時には、あんなに自信満々に笑っていたのに。教室でも常に友人に囲まれていて、一人で黙々と読書に耽る笑美とは真逆。
(すっかり人気者のルイ君が、私相手に動揺してるなんて、おかしいよね)
笑美「これ、返しにきたの」
紙袋に入った弁当箱を差し出す。
瑠衣「えっ、ああ、そういえば」
笑美「学校ではタイミングがなかったから」
悪目立ちしたくないというのが、本音。
(今のルイ君は、クラスでは別人みたいだし)
瑠衣「わざわざ、ごめん」
受け取った紙袋を、浮かない表情で見つめる。
瑠衣「中身、捨てちゃった?」
笑美「……私、そんなことしない」
瑠衣は言い方を間違えたと、慌てて顔を上げる。
瑠衣「それは分かってるんだ、嫌な言い方してごめん!」
笑美「……別に、謝らなくても」
瑠衣「嫌がってたのに、無理に押し付けたから。あとになって後悔したけど、もう遅いし」
互いに、気まずい空気が流れる。
(そういえば、あの時私の顔色が悪いって心配してくれたんだよね)
笑美「……美味しかったよ、玉子焼き」
小さな声でぽつりと呟くと、瑠衣の顔がたちまち綻ぶ。
瑠衣「ホント⁉︎良かった!甘い玉子焼き、もう好きじゃなくなってたらどうしようかと思ってたんだ!」
笑美「じゃああれは……」
(最初から、私に食べさせる為に作ってきたんだ)
教室で見せるスキのない笑顔とは違う、照れたようにふにゃりと緩んだ頬。
笑美「どうして?」
瑠衣「えっ?」
笑美「ル……、東雲君は、私が嫌いなんでしょ⁉︎だから昔、あんな風に酷いこと言ったんでしょ⁉︎」
瑠衣「ち、違っ、あれは……!」
ガチャッ
笑「あれ。二人とも、そんなとこで何騒いでんの?ケンカ?」
Tシャツに短パン姿の笑が、自宅から欠伸をしながら現れる。
笑「俺は今起きたとこ。昨日友達とゲームやってたらやめ時分かんなくてさ、寝たの朝の5時とかヤバくね?」
空気の読めない笑は、笑いながら二人に近付く。
笑「なになに、今から二人でなんかすんの?俺も混ぜろよ、ちょーど暇だし」
笑美「べ、別にそういうわけじゃ」
笑「あれ。笑美、今日匂い違わね?」
笑美「ち、ちょっとやめてよ、笑!」
くんくんと鼻を近づける笑と、それを嫌がる笑美。そんなやりとりを見て、また瑠衣の表情が暗く沈む。
瑠衣「笑美ちゃん。これ、わざわざありがとう」
笑美「あ、あの」
瑠衣「じゃあ、また学校で」
そのまま笑美とは目を合わせず、瑠衣は扉を閉めてしまった。
笑美「……」
笑「なんだアイツ。急にハラでも壊したんか?」
笑美「もう、バカ!」
笑「いてっ、おい止めろ!」
笑美と笑の声をドア越しに聞きながら、瑠衣は俯きがちに唇を噛み締めた。
笑美・瑠衣・笑「「「いただきまーす」」」
それぞれがお弁当を広げて、おいしそうに食べる。
笑美「ルイ君のお弁当って、いつも可愛いよね」
瑠衣「お母さん、こういうの作るの好きなんだって」
瑠衣のキャラ弁を、キラキラした目で見る笑美。この頃は元気いっぱいで、いつもニコニコしていた。
笑「俺んちの弁当も、おにぎりでっかくていいだろ!」
笑美「うん、お腹いっぱいになりそう!」
笑「ちょっと、食べるか?」
やんちゃな笑が、おにぎりを掴んで差し出す。それを見た瑠衣が、焦る。
瑠衣「だ、だめだよ!」
笑「えっ、なんで?」
瑠衣「し、笑君はいっぱい食べるから、だから、あげちゃったら、お腹が空くかも」
瑠衣はオドオドしながら、自分の玉子焼きを笑美のお弁当箱に入れた。
瑠衣「ぼくは、たくさんは食べられないから。だから、笑美ちゃんにあげる」
笑美「いいの?」
瑠衣「うん」
笑美「ルイ君、ありがとう!」
満面の笑顔を見せる笑美、瑠衣の目元は隠れ気味で見えないが、嬉しそうに頬を染めている。
笑美「ルイ君ちの玉子焼き、甘くておいしいね!」
瑠衣「次も作ってもらうから、そうしたらまたあげるよ」
笑美「だめだよ、ルイ君の分がなくなっちゃう」
心配そうな笑美を見て、瑠衣は首を振る。
瑠衣「だいじょうぶ、玉子焼きをたくさん入れてもらうから」
笑美「ホント?うれしい!」
笑「笑美ばっかりずるいぞ!俺も食べたい!」
笑美「もう、笑君うるさい!」
割り込んでくる笑を、笑美が手で押しのける。二人がじゃれあっているのを見た瑠衣は、少しだけ胸の奥にモヤモヤが広がるのを感じていた。
(回想終わり)
⚫︎笑美の部屋
(これ、どうしよう……)
テーブルに置かれたお弁当箱を、じいっと見つめる。もちろん、玉子焼きもおにぎりも捨てずに食べた。
(昔食べたのと同じ、懐かしい味がした)
思い出が蘇って少し泣きそうになったことは、誰にも言えない。
なかなか渡せないまま、今は土曜の昼。返さないわけにもいかず、かといって無言のままドアの前に置いておくのはさすがに気が引ける。
(笑に頼んでもいいけど……)
この間の悲しげな笑顔を思い出すと、それも出来ない。
「仕方ない、さっと返して終わろう」
立ち上がり、笑美は隣の瑠衣の部屋へ。
ピンポーン
ガチャッ
瑠衣「えっ、笑美ちゃん!」
学校での完璧な姿はなく、ボサボサの髪とスウェットに、黒縁の眼鏡。
瑠衣「急にこっちのインターホン鳴らすとか、てっきり笑くらいしかいないと思ってて……」
相手も見ずに、ドアを開けた瑠衣。油断していたことにほんのり顔を赤らめながら、必死に髪を手で撫でつける。
瑠衣「まさか笑美ちゃんが来てくれるなんて」
笑美「隣に住んでるのに?」
瑠衣「だって、嫌われてるし……」
今の瑠衣は下がった髪と眼鏡で表情が見えない。話し方も、普段よりおどおどしていて声も小さい。
(なんか、ちょっと懐かしいかも)
転校初日に顔を合わせた時には、あんなに自信満々に笑っていたのに。教室でも常に友人に囲まれていて、一人で黙々と読書に耽る笑美とは真逆。
(すっかり人気者のルイ君が、私相手に動揺してるなんて、おかしいよね)
笑美「これ、返しにきたの」
紙袋に入った弁当箱を差し出す。
瑠衣「えっ、ああ、そういえば」
笑美「学校ではタイミングがなかったから」
悪目立ちしたくないというのが、本音。
(今のルイ君は、クラスでは別人みたいだし)
瑠衣「わざわざ、ごめん」
受け取った紙袋を、浮かない表情で見つめる。
瑠衣「中身、捨てちゃった?」
笑美「……私、そんなことしない」
瑠衣は言い方を間違えたと、慌てて顔を上げる。
瑠衣「それは分かってるんだ、嫌な言い方してごめん!」
笑美「……別に、謝らなくても」
瑠衣「嫌がってたのに、無理に押し付けたから。あとになって後悔したけど、もう遅いし」
互いに、気まずい空気が流れる。
(そういえば、あの時私の顔色が悪いって心配してくれたんだよね)
笑美「……美味しかったよ、玉子焼き」
小さな声でぽつりと呟くと、瑠衣の顔がたちまち綻ぶ。
瑠衣「ホント⁉︎良かった!甘い玉子焼き、もう好きじゃなくなってたらどうしようかと思ってたんだ!」
笑美「じゃああれは……」
(最初から、私に食べさせる為に作ってきたんだ)
教室で見せるスキのない笑顔とは違う、照れたようにふにゃりと緩んだ頬。
笑美「どうして?」
瑠衣「えっ?」
笑美「ル……、東雲君は、私が嫌いなんでしょ⁉︎だから昔、あんな風に酷いこと言ったんでしょ⁉︎」
瑠衣「ち、違っ、あれは……!」
ガチャッ
笑「あれ。二人とも、そんなとこで何騒いでんの?ケンカ?」
Tシャツに短パン姿の笑が、自宅から欠伸をしながら現れる。
笑「俺は今起きたとこ。昨日友達とゲームやってたらやめ時分かんなくてさ、寝たの朝の5時とかヤバくね?」
空気の読めない笑は、笑いながら二人に近付く。
笑「なになに、今から二人でなんかすんの?俺も混ぜろよ、ちょーど暇だし」
笑美「べ、別にそういうわけじゃ」
笑「あれ。笑美、今日匂い違わね?」
笑美「ち、ちょっとやめてよ、笑!」
くんくんと鼻を近づける笑と、それを嫌がる笑美。そんなやりとりを見て、また瑠衣の表情が暗く沈む。
瑠衣「笑美ちゃん。これ、わざわざありがとう」
笑美「あ、あの」
瑠衣「じゃあ、また学校で」
そのまま笑美とは目を合わせず、瑠衣は扉を閉めてしまった。
笑美「……」
笑「なんだアイツ。急にハラでも壊したんか?」
笑美「もう、バカ!」
笑「いてっ、おい止めろ!」
笑美と笑の声をドア越しに聞きながら、瑠衣は俯きがちに唇を噛み締めた。