笑わないで、エミちゃん。
第五話
⚫︎放課後、笑美の部屋
笑美「……最悪、腫れてる」
鏡を見ながら、真っ赤になった目元を指でなぞる。
(あの後結局、私は早退した)
(泣き顔を隠すために、瑠衣君が上着を貸してくれた)
その時のことを思い出し、顔が赤くなる。
笑美「子どもみたいに泣いて、恥ずかし……」
(自分でも、どうしようもなかった)
ピンポーン
瑠衣「急に来て、ごめん」
笑美「う、うん」
瑠衣「体調はどう?辛くない?」
瑠衣は笑美の腫れた目を見て、心配そうに眉を下げる。
瑠衣「ごめん、俺のせいで」
笑美「違うよ、私が勝手に泣いただけ」
瑠衣「そんなことない、全部俺が悪いんだ」
(ルイ君、再会してから謝ってばっかり)
笑美「良かったら、中入る?」
瑠衣「えっ、いや、でも」
あからさまに動揺する瑠衣。
笑美「ちゃんと、話がしたいと思って。嫌なら、無理にとは言わないけど」
瑠衣「い、嫌じゃない!」
笑美「じゃあ、どうぞ」
瑠衣「は、はい」
瑠衣は赤くなった顔が見られないように、手の甲で隠しながら笑美の家へ。
瑠衣「あ、こ、これ。体調悪かったら辛いかなと思って、色々買ってきたから。良かったら、食べて」
俯きがちに、ビニール袋を渡す瑠衣。
笑美「わざわざありがとう」
瑠衣「……」
笑美「適当に、ソファにでも座ってて。お茶持ってくから」
瑠衣「……」
黙ったままの瑠衣を不思議に思った笑美が、顔を覗き込んだ。
瑠衣「うわ、顔近っ!」
笑美「えっ、ごめん」
瑠衣「い、いやそうじゃなくて……」
学校での王子キャラとは違う、素の姿。
(こっちのルイ君の方が、落ち着く)
笑美の頬が、ほんの少しだけ緩む。
瑠衣「……ごめん」
笑美「え?」
瑠衣「笑美ちゃんが笑わなくなっちゃったのは俺のせい、だよね」
瑠衣が泣きそうな顔を見せる。
瑠衣「今さらだって分かってるけど、あの時は本当にごめん」
笑美「……」
瑠衣「引越しが決まって、焦ってたんだ。俺は笑美ちゃんと離れなきゃいけないのに、笑は……」
笑美「笑?なんで笑の名前が出てくるの?」
瑠衣「い、いや。とにかく、思ってもないこと言って、笑美ちゃんを傷付けた。到底許されることじゃないけど、どうしても直接謝りたくて」
(突き放せたら、楽なのに)
今にも泣き出しそうな様子を見て、気弱だった昔の瑠衣を思い出す。笑美が、遠慮がちに瑠衣の隣に座る。
笑美「瑠衣君は、私が嫌いなんじゃないの?」
瑠衣「まさか!今日も言ったけど、俺は昔からずっと、笑美ちゃんが――」
言いかけて、口をつぐむ。
瑠衣「笑美ちゃんの笑った顔が、大好きだったんだ」
笑美「じゃあ、どうしてあんなこと……」
瑠衣「幼稚な焼きもち、かな」
笑美「焼きもち……」
(呆れたような、腹が立つような、変な気分)
(何を言われても、あの時傷付いたのは事実で、そのせいで笑えなくなったのも本当)
(大好きなルイ君から言われたから、悲しかった)
笑美「許せない」
瑠衣「……」
笑美「けど、もういいよ」
(ルイ君の悲しそうな顔、見たくない)
笑美「小さい頃のことだし、私もちょっと大げさだったかも」
瑠衣「笑美ちゃんは何も悪くない!俺があんなこと言わなきゃ、笑美ちゃんは今も笑って……」
笑美「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない」
(ルイ君がいなくなってから、いろんなことが楽しいって思えなくなった)
(私が思ってた以上に、ルイ君の存在が大きかったんだ)
(誤解だったって分かって、怒りよりも安心の方が勝ってる)
瑠衣「それって、どういう……」
笑美「ううん、気にしないで。とにかく、東雲君が罪悪感を感じる必要ないから。お互い、もう忘れよう」
瑠衣「……」
笑美「あ、ごめん。まだお茶の用意してなかったね」
立ちあがろうとする笑美の手を、瑠衣が掴む。
瑠衣「待って」
笑美「あ、あの」
瑠衣「俺、笑美ちゃんの過去にはなりたくない」
まっすぐな視線に、笑美は目を逸せない。
瑠衣「また、昔みたいに戻りたい」
笑美「……」
瑠衣「なんて、図々しいよね」
笑美「そんな風には、思ってないけど……」
(今のルイ君は、私には眩し過ぎる)
誤解が解けて嬉しい反面、お互いが変わってしまったことに引け目を感じる笑美。
笑美「学校でも私はあんな感じだし、東雲君とは住む世界が違うかなって」
瑠衣「そんなことない。俺は、笑美ちゃんにつり合う男になる為に、変わったんだ」
(まさか、そんな理由で?)
引っ込み思案でいつも笑美の後ろに隠れていた頃の瑠衣を思い出す。
瑠衣「お願い、笑美ちゃん。俺を、笑美ちゃんの中から追い出さないで」
笑美「東雲君……」
瑠衣「前みたいに、名前で呼んで?」
掴まれた手に、ぎゅっと力が込もる。
笑美「で、でも」
瑠衣「どうしても、ダメ?」
(そんなウルウルした目、ずるい)
笑美「る、ルイ、くん」
瑠衣「……へへ」
嬉しそうにふにゃっと笑う瑠衣を見て、笑美の心臓がキュンと音を立てた。
笑美「は、恥ずかしいから離して!」
恥ずかしさに耐えられず、笑美は手を振り解いて頬を膨らませる。
瑠衣「笑美ちゃん、可愛い」
笑美「もう、バカ!」
(バカって言われて、なんで嬉しそうなの!)
瑠衣「ねぇ、笑美ちゃん」
笑美「な、なに?」
瑠衣は立ち上がり、再び笑美の手を取る。
瑠衣「俺に、笑美ちゃんの笑顔を取り戻す許可をくれない?」
笑美「えっ、どういうこと?」
瑠衣「俺が、君を笑顔にしたい」
チュッ
手の甲にキスをする瑠衣。笑美は驚き、ただ彼を見つめることしかできなかった。
笑美「……最悪、腫れてる」
鏡を見ながら、真っ赤になった目元を指でなぞる。
(あの後結局、私は早退した)
(泣き顔を隠すために、瑠衣君が上着を貸してくれた)
その時のことを思い出し、顔が赤くなる。
笑美「子どもみたいに泣いて、恥ずかし……」
(自分でも、どうしようもなかった)
ピンポーン
瑠衣「急に来て、ごめん」
笑美「う、うん」
瑠衣「体調はどう?辛くない?」
瑠衣は笑美の腫れた目を見て、心配そうに眉を下げる。
瑠衣「ごめん、俺のせいで」
笑美「違うよ、私が勝手に泣いただけ」
瑠衣「そんなことない、全部俺が悪いんだ」
(ルイ君、再会してから謝ってばっかり)
笑美「良かったら、中入る?」
瑠衣「えっ、いや、でも」
あからさまに動揺する瑠衣。
笑美「ちゃんと、話がしたいと思って。嫌なら、無理にとは言わないけど」
瑠衣「い、嫌じゃない!」
笑美「じゃあ、どうぞ」
瑠衣「は、はい」
瑠衣は赤くなった顔が見られないように、手の甲で隠しながら笑美の家へ。
瑠衣「あ、こ、これ。体調悪かったら辛いかなと思って、色々買ってきたから。良かったら、食べて」
俯きがちに、ビニール袋を渡す瑠衣。
笑美「わざわざありがとう」
瑠衣「……」
笑美「適当に、ソファにでも座ってて。お茶持ってくから」
瑠衣「……」
黙ったままの瑠衣を不思議に思った笑美が、顔を覗き込んだ。
瑠衣「うわ、顔近っ!」
笑美「えっ、ごめん」
瑠衣「い、いやそうじゃなくて……」
学校での王子キャラとは違う、素の姿。
(こっちのルイ君の方が、落ち着く)
笑美の頬が、ほんの少しだけ緩む。
瑠衣「……ごめん」
笑美「え?」
瑠衣「笑美ちゃんが笑わなくなっちゃったのは俺のせい、だよね」
瑠衣が泣きそうな顔を見せる。
瑠衣「今さらだって分かってるけど、あの時は本当にごめん」
笑美「……」
瑠衣「引越しが決まって、焦ってたんだ。俺は笑美ちゃんと離れなきゃいけないのに、笑は……」
笑美「笑?なんで笑の名前が出てくるの?」
瑠衣「い、いや。とにかく、思ってもないこと言って、笑美ちゃんを傷付けた。到底許されることじゃないけど、どうしても直接謝りたくて」
(突き放せたら、楽なのに)
今にも泣き出しそうな様子を見て、気弱だった昔の瑠衣を思い出す。笑美が、遠慮がちに瑠衣の隣に座る。
笑美「瑠衣君は、私が嫌いなんじゃないの?」
瑠衣「まさか!今日も言ったけど、俺は昔からずっと、笑美ちゃんが――」
言いかけて、口をつぐむ。
瑠衣「笑美ちゃんの笑った顔が、大好きだったんだ」
笑美「じゃあ、どうしてあんなこと……」
瑠衣「幼稚な焼きもち、かな」
笑美「焼きもち……」
(呆れたような、腹が立つような、変な気分)
(何を言われても、あの時傷付いたのは事実で、そのせいで笑えなくなったのも本当)
(大好きなルイ君から言われたから、悲しかった)
笑美「許せない」
瑠衣「……」
笑美「けど、もういいよ」
(ルイ君の悲しそうな顔、見たくない)
笑美「小さい頃のことだし、私もちょっと大げさだったかも」
瑠衣「笑美ちゃんは何も悪くない!俺があんなこと言わなきゃ、笑美ちゃんは今も笑って……」
笑美「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない」
(ルイ君がいなくなってから、いろんなことが楽しいって思えなくなった)
(私が思ってた以上に、ルイ君の存在が大きかったんだ)
(誤解だったって分かって、怒りよりも安心の方が勝ってる)
瑠衣「それって、どういう……」
笑美「ううん、気にしないで。とにかく、東雲君が罪悪感を感じる必要ないから。お互い、もう忘れよう」
瑠衣「……」
笑美「あ、ごめん。まだお茶の用意してなかったね」
立ちあがろうとする笑美の手を、瑠衣が掴む。
瑠衣「待って」
笑美「あ、あの」
瑠衣「俺、笑美ちゃんの過去にはなりたくない」
まっすぐな視線に、笑美は目を逸せない。
瑠衣「また、昔みたいに戻りたい」
笑美「……」
瑠衣「なんて、図々しいよね」
笑美「そんな風には、思ってないけど……」
(今のルイ君は、私には眩し過ぎる)
誤解が解けて嬉しい反面、お互いが変わってしまったことに引け目を感じる笑美。
笑美「学校でも私はあんな感じだし、東雲君とは住む世界が違うかなって」
瑠衣「そんなことない。俺は、笑美ちゃんにつり合う男になる為に、変わったんだ」
(まさか、そんな理由で?)
引っ込み思案でいつも笑美の後ろに隠れていた頃の瑠衣を思い出す。
瑠衣「お願い、笑美ちゃん。俺を、笑美ちゃんの中から追い出さないで」
笑美「東雲君……」
瑠衣「前みたいに、名前で呼んで?」
掴まれた手に、ぎゅっと力が込もる。
笑美「で、でも」
瑠衣「どうしても、ダメ?」
(そんなウルウルした目、ずるい)
笑美「る、ルイ、くん」
瑠衣「……へへ」
嬉しそうにふにゃっと笑う瑠衣を見て、笑美の心臓がキュンと音を立てた。
笑美「は、恥ずかしいから離して!」
恥ずかしさに耐えられず、笑美は手を振り解いて頬を膨らませる。
瑠衣「笑美ちゃん、可愛い」
笑美「もう、バカ!」
(バカって言われて、なんで嬉しそうなの!)
瑠衣「ねぇ、笑美ちゃん」
笑美「な、なに?」
瑠衣は立ち上がり、再び笑美の手を取る。
瑠衣「俺に、笑美ちゃんの笑顔を取り戻す許可をくれない?」
笑美「えっ、どういうこと?」
瑠衣「俺が、君を笑顔にしたい」
チュッ
手の甲にキスをする瑠衣。笑美は驚き、ただ彼を見つめることしかできなかった。