捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる

ウィンバリー子爵家の『壁令嬢』

 シャノン・ウィンバリーを忖度の一切ない言葉で表現するなら、「でかい令嬢」だった。

 ウィンバリー子爵家三姉妹の真ん中として生まれた彼女は、小柄でふっくらとした庇護欲をそそるような姉、長身で均整の取れた肢体を持つ妹に挟まれている。

 父方がどちらかというと高身長で、母方がどちらかというとふっくらとした体つきになりやすいという体質を、悪い意味でふんだんに取り入れてしまった結果、シャノンは女性の平均身長より高くてかつ、これといった運動もしていないのにしっかりとした骨格を持つ女性になってしまった。

「シャノンっていっつも無愛想だし、見下ろされているような気がして嫌だわ」
 と姉が言えば、

「シャノンお姉様って、かわいそうよね。後ろから見たらまるで、男の人だもの」
 と妹も言う。

 普段は「このデブ姉!」「ガリガリの鶏ガラのくせに!」と互いを罵る姉と妹なのに、シャノンをいびるときには結託するというのが憎らしい。敵の敵は味方、ということなのだろうか。

 両親もまた、「どうしてシャノンだけ、こんなにかわいげのない子に……」「せめてもう少し背が低いか、肩幅が狭ければ」と、本人の前でも愚痴をこぼす。

 高い身長と、子爵令嬢としては不必要なほどの体格のよさ、そして癖のないベージュブラウンの髪にグレーの目を持つシャノンは、『壁令嬢』と呼ばれている。
 いつぞや、王城で開かれたパーティーに家族で行った際、案の定自分だけには男性からの声がかからず壁際でぽつんと立っているシャノンの姿を見て、誰かが命名したらしい。

 ちょうどその会場の壁はシャノンの髪によく似た色合いで、壁と一体化しているかのようだった。しかも本人がでかいので、あれでは『壁の花』ならぬ『壁』そのものだ、と言われたのが始まりらしい、と笑いながら教えてくれたのは、姉のダフニーだった。

「でも私たち、シャノンには感謝しているのよ?」
「そうそう。だってシャノンお姉様がいるかいないかで、私たちに声をかけてくれる男性の数が違うもの」

 妹のオリアーナも、笑いをかみ殺しながら言う。

 少しぽっちゃり気味の姉も、シャノンの隣だったらスマートに見える。
 長身な妹も、シャノンの隣だったら身長が目立たずスタイルのよさが際立つ。

 だから姉も妹も、そしてシャノンを持てあます両親も、シャノンを「でかい令嬢なんて、恥ずかしい」なんて言って屋敷の奥に閉じ込めずにパーティーに連れて行くのだ。本人が嫌がったとしても。

(私だって、好きでこんな体に生まれたわけじゃないのに……)
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