捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
 少年とメイドとはここで別れ、シャノンはディエゴに連れられて騎士団棟に向かった。騎士団棟は本城とは別棟だが、廊下でつながっている。

 また普通の騎士団棟なら練兵場が庭にあるが、積雪期でも使えるように地下に造られているという。王都は地下があまり発達していないので、地下に広い練兵場があるというのはなんとも不思議な感覚だった。

 城に到着したのが夕方だからか、あまり人影はない。そのため、ほぼ誰にも会うことなくシャノンは騎士団棟に入り、休憩室だという部屋の前まで来ることになった。

「じゃあ、こっちだ。まずは皆に挨拶をしてね。新人事務官が来ることは先に手紙で知らせているから、皆事情は分かっている」
「かしこまりました」

 ディエゴの案内を受けてシャノンは返事をするが、少し声が裏返ってしまった。

(大丈夫。馬車の中で何回も挨拶の練習したし、笑顔だって作れる)

 ディエゴは「騎士団員は、気さくでいいやつばかりだ」と言うから、きっと新入りだからといって敵視されたりいじめられたりはしないだろう。とはいえ、王国北部を守る北方騎士団というだけあり、気難しい人もいるかもしれない。

(第一印象、頑張らないと……!)

 すうはあと何度も深呼吸して、ディエゴが部屋のドアをノックするのを見守る。

「皆、いるか? 新人事務官を通すぞ」

 ディエゴが一言断ってから、ドアを開ける。長身な彼が先に入ってから、シャノンも緊張しつつドアをくぐり――

「おおっ、そこにいるのが新人か!」
「やけに小さいな! まだ成人したてか?」
「やだちょっと、ディエゴったら、こんなかわいい子がうちに来て大丈夫なのぉ?」

 やいのやいのと騒ぎ立てる騎士たち。ディエゴは「おまえらうるさいな……」とぼやくが、彼の後ろに立っていたシャノンはぽかんとしてしまった。

 部屋には、二十名ほどの騎士たちがいた。ざっと見てほとんどが男性で、女性が三人ほどだろうか。皆、レザーアーマーの上に防寒用のコートを着ており、護身用と思われる剣を腰から下げている者もいる。

 だがシャノンが驚いたのは、騎士たちの格好ではない。少し意匠は違えど王都にも騎士はいたので、こういった身なりには見慣れているのだが。

(な、なんだか皆、大きくない……?)

 ディエゴもなかなかの長身だが、皆ディエゴ以上の高身長でかつ、体格もよかった。馬車で一緒になった少年とメイドとは比べものにならないほどのでかさである。

 立派な髭を蓄えた男性騎士が椅子から立ち上がり、のしのしとシャノンの方にやってきた。まるで猛獣のような見た目の巨漢が迫ってきたため、思わずシャノンは後ずさってしまう。

「よく見て見れば、うちの娘くらいじゃないか! まだ働きに出るのは早いだろう!」
「待て、彼女は成人済みの女性だ」
「……嘘だろう?」
「嘘、ではありません」

 ディエゴに突っ込まれた大男が呆然として言うので、シャノンは咳払いをしてからスカートを軽く摘まんでお辞儀をした。インパクトにやられて、挨拶を失念していた。
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