捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
「お初にお目にかかります、シャノンと申します。家名はございませんので、どうか名前でお呼びください」
「えー、やだやだ! お人形さんみたいでかーわいー!」

 猛獣男を押しのけてやってきたのは、三人の女性騎士たち。一人は男性陣より若干小柄というほど背が高く、もう一人は筋骨隆々で、もう一人はシャノンより少し大きいというくらいだが非常に体格がいい。

 シャノンと同じか少し年上くらいだろう彼女らに三方向を囲まれてシャノンはひっと息を呑むが、女性騎士たちは目をらんらんと輝かせて迫ってくる。

「なになに、今のお辞儀、超かわいかった!」
「てかなんでこんな薄っぺらい服を着てんの? 寒いでしょ? お腹冷えるよ?」
「ねー、ディエゴ。こんなちっこい子がうちで過ごすのは大変だよ! ふっかふかの服を買ってあげなよ!」
「もちろん、予算から出す予定だ」

 ディエゴは呆れたように言ってから、女性騎士たちからシャノンをかばうように間に割って入った。

「……彼女にもいろいろあるのだが、事務員としての能力は十分だ。仲よくしてやってくれ。それから……年齢は二十一だと聞いている。そうだな?」
「あっ、はい。二ヶ月ほどで、二十二歳になります」
「ええー、マジ?」
「あたしと同い年じゃん!」
「モージズのところのお嬢ちゃんって、十六歳だっけ? 確かに十分それくらいに見えるわぁ!」

 シャノンの年齢を聞いた女性騎士たちはもちろんのこと、男性騎士たちはぽかんとしている。彼らは本当に、シャノンのことを未成年の十六歳くらいだと思っていたようだ。

(でも確かに、皆揃いも揃って大柄だものね……)

 王都では「でかい令嬢」扱いだったシャノンも、ここでは未成年のお嬢ちゃんサイズだった。
 確かに実家にいた頃も、三姉妹並んでいると「末っ子さん?」と呼ばれることが多かった。シャノンの体格をあざ笑っていた姉と妹だが、純粋な顔立ちだとシャノンが一番若く見えるというのだけは、悔しがっていたものだ。

 なおもあれこれ構いたがる女性騎士たちや、とっくに成人済みのシャノンを未成年扱いしたことが後ろめたいらしい男性騎士たちから距離を置き、部屋の隅にあるソファ席にシャノンを呼んだディエゴは、そこに腰を下ろしてから苦笑した。

「驚かせてしまってすまないな」
「いえ、皆様気さくで明るくて、これから楽しく働けそうだと思いました」
「そう言ってくれると嬉しいよ」

 シャノンの答えにディエゴは安心したように笑い、ちらと窓の外を見やった。

「ここは君がかつて住んでいた王都と同じ王国内だが、昔から王都近郊より北の地元民との関わりが多い。私は王国南部にある地方都市出身なのだが、他の者たちは皆北方で生まれ育った。北方地元民の血を継いでいる者がほとんどだ」

 ディエゴの説明に、そういえば、とシャノンは北方地域についての事情を思い出す。
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