捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
 ここランバート辺境伯領は大昔は王国領土ではなく、数百年前の統合により王国に取り込まれた。王都からの距離が遠いことや、温帯である王都近郊と違って亜寒帯であることもあり、王国よりも北部との関わりが強い。

 北方地元民は、身長が高くて体格が大きい者が多いという。髪の色も銀や金などが主流で肌の色も白いそうで、なるほど確かに部屋の奥で男女混合アームレスリング大会を繰り広げている騎士たちを見ても、北部の色を持つ者が多かった。

 王国北部を広く領土として抱えるランバート地方も吸収合併された当初は田舎の男爵領扱いだったそうだが、国防の面を鑑みても高い爵位を与えるべきだと判断されたらしい。
 その後、王家が積極的にランバート家との縁組みを行ったこともあり、辺境伯家にまでのし上がった。今の当主であるエルドレッド・ランバートの祖父母も、一人娘だった祖母のもとに王子が婿入りしてきた形なのだと、ディエゴが教えてくれた。

(北部の地元民の血も入っているのなら、皆私より大柄で当然ね……)

 いざとなったら「壁令嬢です!」と自虐ネタを使ってでも皆に溶け込む必要があるかとも思ったのだが、不要どころかここでは不発で終わりそうだ。どう見てもこの中でのシャノンは壁ではなくて、お人形さんなのだから。

「……君は、王都で辛い思いをしてきたのだろう? 王都の煩雑さは、私も知っている。ここにいる者たちは若干馬鹿だが、人がよくて面倒見がいい。決して息苦しさを感じることはないと思う」

 声を落としてやや遠慮がちにディエゴが言うので、シャノンは微笑んでうなずく。

「はい、私もそう思っています。……私、お人形さんみたいなんて言われるの、初めてでした」
「すまない。その失言をした女性騎士はラウハというのだが、後できつく言っておく」
「いえ、むしろ嬉しかったです! 私、王都にいた頃はお人形さんどころか『壁』だったので」

 あはは、と笑いながら言う自分に、シャノン本人が驚いていた。

『壁の花ならぬ、壁令嬢』と笑われていたことを、こんなに軽い気持ちで言えるようになるなんて。自虐ネタどころかとうの昔に過ぎ去ったものとして処理できるようになるなんて。

(……うん。私きっと、ここでやっていけるわ)

 シャノンのことを『でかい令嬢』ではなくて一人の新人――それも小柄――として扱ってくれる人たちの中でなら、きっとシャノンも笑っていられる。
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