捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
「オイヴァさん! 買ったものの報告はきちんとしてください!」
「お? おお、すまない、忘れていた!」
「ティモさん、トピアスさん! 脱いだ服はそのへんに散らかさないでください!」
「えー? あー、悪い悪い!」
「後で片付けるから、ちょっと待ってよ~」
「だめです! 今すぐ、です!」
脱ぎ捨てられた服が散乱する休憩室でシャノンがシャーッと怒ると、上半身裸でレスリングをしていた騎士二人は「ごめんってば」「シャノンちゃん、怒ると怖いなぁ」とぼそぼそ言いながら自分たちが脱いだ服を片付け始めた。
片付けのできない騎士たちを叱った後、シャノンはオイヴァが忘れていた物資の購入報告について書くために一旦仕事部屋に戻って、書いたものをファイルに綴じる。
そしてそろそろ見回りに出ていた騎士たちが戻ってくる頃なので、休憩室の暖炉の薪を追加しようと薪置き場に向かうと、そこで作業していた男性たちに声をかけられた。
「おう、こんにちは事務官さん!」
「何か必要なものでも?」
「こんにちは、皆様。もうすぐ見回りの騎士たちが戻ってくるのですが休憩室の暖炉の火が小さくなってきているので、新しい薪をもらおうかと」
シャノンがそう言うと、肌寒い中でも腕まくりをして荷物運びをしていた男性たちがええっと声を上げた。
「そりゃもちろん持っていけばいいけれど……事務官さん、一人で持っていくのか?」
「まあ、何往復かすればいいかと」
「だめだだめだ! そんなきれいな服を着ていて薪なんて運んでいられるか!」
「それに、薪のささくれた部分で手を傷つけるだろう!」
「……手袋をしますので」
「だめだ! ……おい、おまえたち! 事務官さんのために一肌脱ぐぞ!」
リーダー格らしい男性が声をかけると、その場にいた者たちは「おう!」と声を上げた。そしてシャノンでは一度に一束抱えるので精一杯だろう太さの薪をひょいひょいと抱え、騎士団棟の休憩室に向かって走っていった。
シャノンが辺境伯城に来て、一ヶ月以上。
事務官として働くようになって、十日ほど。
(私、ものすごく甘やかされている……?)
初日からなんとなく思っていたが、想像以上に自分は甘やかされているのだと気づいた。
辺境伯城の一角を占める、騎士団棟。ここに出入りするのは騎士と使用人たちで、子どもの姿は見えない。騎士団棟にある宿舎は主に独身向けで、モージズのように家族で暮らしている者は騎士団棟の外に家族で住んでいる。
北方騎士団は、十二歳から見習いになれて十六歳から正騎士採用試験を受けられる。そのため騎士団棟にいる最年少は十二歳なのだが、その十二歳でさえほとんどの者はシャノンより大きい。
稀にシャノンより小柄な少年もいるが成長期が遅めなだけで、一年もしないうちにシャノンを追い越すだろうと言われている。
そういうわけで、成人済みの二十一歳でありながらシャノンは騎士団棟で生活する者の中でぶっちぎりで小柄で、しかも童顔気味なのもあって子ども扱いされがちだった。
見習い騎士でさえ、シャノンが非番のときに私服で歩いていると「どこの家の子?」と聞いてきて、相手が自分より十歳近く上の事務官だと知ると真っ青な顔で謝ってくるくらいだ。
だからか、騎士団棟の大人たちはシャノンに甘い。
どれくらい甘いかというと、先ほどのように荷物を持ってくれるだけでなく、普通に仕事をしているだけで「偉いわねぇ」とお菓子をくれるくらい、甘い。
「お? おお、すまない、忘れていた!」
「ティモさん、トピアスさん! 脱いだ服はそのへんに散らかさないでください!」
「えー? あー、悪い悪い!」
「後で片付けるから、ちょっと待ってよ~」
「だめです! 今すぐ、です!」
脱ぎ捨てられた服が散乱する休憩室でシャノンがシャーッと怒ると、上半身裸でレスリングをしていた騎士二人は「ごめんってば」「シャノンちゃん、怒ると怖いなぁ」とぼそぼそ言いながら自分たちが脱いだ服を片付け始めた。
片付けのできない騎士たちを叱った後、シャノンはオイヴァが忘れていた物資の購入報告について書くために一旦仕事部屋に戻って、書いたものをファイルに綴じる。
そしてそろそろ見回りに出ていた騎士たちが戻ってくる頃なので、休憩室の暖炉の薪を追加しようと薪置き場に向かうと、そこで作業していた男性たちに声をかけられた。
「おう、こんにちは事務官さん!」
「何か必要なものでも?」
「こんにちは、皆様。もうすぐ見回りの騎士たちが戻ってくるのですが休憩室の暖炉の火が小さくなってきているので、新しい薪をもらおうかと」
シャノンがそう言うと、肌寒い中でも腕まくりをして荷物運びをしていた男性たちがええっと声を上げた。
「そりゃもちろん持っていけばいいけれど……事務官さん、一人で持っていくのか?」
「まあ、何往復かすればいいかと」
「だめだだめだ! そんなきれいな服を着ていて薪なんて運んでいられるか!」
「それに、薪のささくれた部分で手を傷つけるだろう!」
「……手袋をしますので」
「だめだ! ……おい、おまえたち! 事務官さんのために一肌脱ぐぞ!」
リーダー格らしい男性が声をかけると、その場にいた者たちは「おう!」と声を上げた。そしてシャノンでは一度に一束抱えるので精一杯だろう太さの薪をひょいひょいと抱え、騎士団棟の休憩室に向かって走っていった。
シャノンが辺境伯城に来て、一ヶ月以上。
事務官として働くようになって、十日ほど。
(私、ものすごく甘やかされている……?)
初日からなんとなく思っていたが、想像以上に自分は甘やかされているのだと気づいた。
辺境伯城の一角を占める、騎士団棟。ここに出入りするのは騎士と使用人たちで、子どもの姿は見えない。騎士団棟にある宿舎は主に独身向けで、モージズのように家族で暮らしている者は騎士団棟の外に家族で住んでいる。
北方騎士団は、十二歳から見習いになれて十六歳から正騎士採用試験を受けられる。そのため騎士団棟にいる最年少は十二歳なのだが、その十二歳でさえほとんどの者はシャノンより大きい。
稀にシャノンより小柄な少年もいるが成長期が遅めなだけで、一年もしないうちにシャノンを追い越すだろうと言われている。
そういうわけで、成人済みの二十一歳でありながらシャノンは騎士団棟で生活する者の中でぶっちぎりで小柄で、しかも童顔気味なのもあって子ども扱いされがちだった。
見習い騎士でさえ、シャノンが非番のときに私服で歩いていると「どこの家の子?」と聞いてきて、相手が自分より十歳近く上の事務官だと知ると真っ青な顔で謝ってくるくらいだ。
だからか、騎士団棟の大人たちはシャノンに甘い。
どれくらい甘いかというと、先ほどのように荷物を持ってくれるだけでなく、普通に仕事をしているだけで「偉いわねぇ」とお菓子をくれるくらい、甘い。