捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
「そりゃそうよ! あたしたちだって、シャノンを大事にしたいもん」
「シャノンが薪を運んで手を怪我するくらいなら、私が代わりに運んでやると思うわ」

 そう言うのは、女性騎士たち。

 北方騎士団に正騎士として活動する女性騎士は初日にも顔を合わせたこの三人だけらしく、休みのときなどもよく三人で行動している。三人ともシャノンと変わらない年齢だからか親しく声をかけてくれて、今では休憩中に一緒にお茶をするくらいの仲になっていた。

 なお彼女らと一緒に卓を囲んでいるが三人とも大柄でよく食べよく飲むので、同じミルクティーを飲んでいても彼女らのカップはカフェオレボウル並みの大きさで、シャノンのマグカップの三杯ほどの容量がありそうだ。

 運んでもらった薪のおかげで休憩室の暖炉はかっかと燃えており、外から帰ってきたばかりの男性騎士たちが背中を丸めて火に当たっている。
 そんな中、シャノンが薪を運んでもらう経緯を話したところ、女性騎士たちは「当然だ」とばかりの反応をしたのだ。

「もう騎士団棟内中で、シャノンは人気者なのよ」
「『騎士団に天使が来た!』って、見習いどもが喜んでいたわねぇ」
「そうそう。そういやシャノン、今朝も見習いにナンパされていたでしょ?」
「ナンパ? ……ああ、いえ、あれは挨拶してもらっただけですよ」

 小柄でむっちりとした体型の女性騎士ラウハに言われたが、一瞬何のことか分からなかった。

(確かに今朝、見習い騎士の子に声をかけられたけれど……)

 もうすぐ正騎士採用試験を受けられそうな年齢の少年騎士は、朝の寒さのためか鼻の頭を真っ赤にしてシャノンに挨拶した。そのときに、持っていた荷物を代わりに持つと言ってくれたのだが、行き先が違うのだからと丁寧に断ったのだった。

 そのことを言うと、ラウハたちは「それがナンパなのよ~!」とはしゃぎ始めた。

「そのボウヤ、若くてかわいいお姉さんが事務官になったからお近づきになりたいと思って声をかけたのよ!」
「挨拶からの荷物運びの申し出なんて、鉄板じゃない!」
「でもナンパだと気づかれないままフられちまって、かーわいそー!」
「シャノンは本当に、モテモテよねぇ!」

 女性騎士たちはけらけら笑って、ミルクティーをがばっと呷った。ではおかわりを、と思ってシャノンが彼女らのカップに新しいお茶を注いでミルクも注ぐと、「やだもー、ありがとう!」と熱烈なハグのおかえしをもらった。

(モテモテ……なのかしら?)

 お茶休憩を終え、鍛錬に行くという女性騎士たちを見送ったシャノンは一人廊下を歩きながら、はてと首を傾げた。

 確かに今朝、若い騎士見習いに声をかけられた。大柄な北方の人間らしく彼は若くとも既にシャノンが見上げなければならないほど背が高かったが顔立ちはまだまだ子どもで、シャノンの恋愛対象にはちょっと難しいだろう。

 人から好かれるというのは、嬉しいことだ。
 もちろん相手にもよるが、基本的には嫌われるより好かれる方がいい。

 騎士団棟の人たちは老若男女問わず気さくで明るいいい人ばかりだから、新人の自分を受け入れてもらえるのはとても嬉しい。
 だが、それを「モテモテ」だと表現されるのは何か違う気もする。

(でも、優しくしてもらえるのは嬉しい……かな)

 なんとなく頬が暖かくなってきたので、そわそわと髪をいじる。
 騎士団棟の事務官は髪型もメイクも自由なので、せっかくだからとシャノンは自分のベージュブラウンの髪をまとめたり巻いたりしてアレンジしている。

 少しでも身長が高く見えたり体が横に広く見えたりするヘアアレンジは、王都にいる間はできなかった。
 でもここだとシャノンの身長が少し高く見えようと横幅が大きく見えようと誰も何も言わないし気にもされないので好きな髪型ができたし、憧れだったヒールありのブーツも履けた。
 それでもラウハたちから「シャノンは今日もかわいいわねぇ」と言われるから、ますますおしゃれをしたくなってくる。
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