捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
婚約破棄宣言の理由
「もう我慢ならない! シャノン、おまえとは結婚できない! 婚約を破棄させてもらう!」
馬鹿でかい声でそんなことをのたまうのは、ジャイルズ・マート。
場所は、国内のとある公爵家の屋敷。本日はここで、主催者である公爵の六十歳の誕生日を祝うパーティーが開かれていた。
王国を長く支えてきた公爵家当主の六十歳の祝いということで多くの貴族たちが招かれているが、さすが名門公爵家。パーティー会場のホールは王城のそれに劣らぬほどの広さで、数百人の客が集まっても狭苦しいとは思えないほどだった。
そんなめでたい場は人々の談笑する声や楽団の奏でる音色、食器の立てる軽やかな音で満たされていたのだが、ジャイルズの裏返った声を聞いて皆、ぴたりと口と手を止めた。
楽団はしばらくの間曲を奏でていたが、会場の様子がおかしいとのことで指揮者が指示を出したらしく、途中で曲も止まって無音状態になった。
だが当の本人であるジャイルズは興奮のあまりか、自分を取り巻く環境の変化に気づいていないようで、目の前にいるシャノンを真っ赤な顔でにらみつけている。
そういうわけでシャノンも皆に注目されることになってしまい、じわじわと顔が熱くなってきた。
(なんで、こんな場所でこんなことを言うのよ!?)
わなわなと手が震えそうになったので、持っていた空のワイングラスを近くのテーブルに置きながらも、シャノンは羞恥で吐き出しそうだった。
きっかけは、ほんの些細なことだ。
パーティー会場で落ち合う予定になっていたのに、ジャイルズは待ち合わせ場所に一向に現れない。
もしかして入れ違いになったのか、と思ってシャノンが会場に入るとそこで、知らない令嬢の腰を抱いて歩くジャイルズと真正面から鉢合わせをしてしまったのだ。
令嬢の方はまずいと思ったようでそそくさと逃げ、シャノンはどういうことなのかとジャイルズを問い詰めた。すると彼は「おまえなんかを横に置く俺の気持ちになれ」と逆ギレし、「だからといって約束を破ったり浮気をしたりするのはどうなんだ」とシャノンが言い返したことで逆上し、例の爆音婚約破棄宣言につながるのだった。
なんだなんだ、と周りの者たちがこちらを見てくるものだから、シャノンはたまったものではない。こんな内輪の揉めごとを、おおっぴらにするなんて。
ジャイルズと婚約して、三年。
来年には結婚式を挙げようかと考えている頃に発生した、婚約破棄問題である。
(と、とにかくまずは、この状況をどうにかしないと!)
馬鹿でかい声でそんなことをのたまうのは、ジャイルズ・マート。
場所は、国内のとある公爵家の屋敷。本日はここで、主催者である公爵の六十歳の誕生日を祝うパーティーが開かれていた。
王国を長く支えてきた公爵家当主の六十歳の祝いということで多くの貴族たちが招かれているが、さすが名門公爵家。パーティー会場のホールは王城のそれに劣らぬほどの広さで、数百人の客が集まっても狭苦しいとは思えないほどだった。
そんなめでたい場は人々の談笑する声や楽団の奏でる音色、食器の立てる軽やかな音で満たされていたのだが、ジャイルズの裏返った声を聞いて皆、ぴたりと口と手を止めた。
楽団はしばらくの間曲を奏でていたが、会場の様子がおかしいとのことで指揮者が指示を出したらしく、途中で曲も止まって無音状態になった。
だが当の本人であるジャイルズは興奮のあまりか、自分を取り巻く環境の変化に気づいていないようで、目の前にいるシャノンを真っ赤な顔でにらみつけている。
そういうわけでシャノンも皆に注目されることになってしまい、じわじわと顔が熱くなってきた。
(なんで、こんな場所でこんなことを言うのよ!?)
わなわなと手が震えそうになったので、持っていた空のワイングラスを近くのテーブルに置きながらも、シャノンは羞恥で吐き出しそうだった。
きっかけは、ほんの些細なことだ。
パーティー会場で落ち合う予定になっていたのに、ジャイルズは待ち合わせ場所に一向に現れない。
もしかして入れ違いになったのか、と思ってシャノンが会場に入るとそこで、知らない令嬢の腰を抱いて歩くジャイルズと真正面から鉢合わせをしてしまったのだ。
令嬢の方はまずいと思ったようでそそくさと逃げ、シャノンはどういうことなのかとジャイルズを問い詰めた。すると彼は「おまえなんかを横に置く俺の気持ちになれ」と逆ギレし、「だからといって約束を破ったり浮気をしたりするのはどうなんだ」とシャノンが言い返したことで逆上し、例の爆音婚約破棄宣言につながるのだった。
なんだなんだ、と周りの者たちがこちらを見てくるものだから、シャノンはたまったものではない。こんな内輪の揉めごとを、おおっぴらにするなんて。
ジャイルズと婚約して、三年。
来年には結婚式を挙げようかと考えている頃に発生した、婚約破棄問題である。
(と、とにかくまずは、この状況をどうにかしないと!)