捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
だからこそ、自分の結婚は慎重にしたいと思っていた。
温暖な気候の王都で生まれ育った貴族令嬢に、この亜寒帯の土地は厳しすぎる。逆に、ラウハたち女性騎士は吹雪を前にしても「これくらい、そよ風同然よ!」と言うくらい強い体を持つから、そういう点では伴侶に向いている。
だが辺境伯夫人として社交に出ることを考えると、伴侶は貴族令嬢であることが望ましい。そうでないと、父と母の逆パターンの二の舞になるかもしれないからだ。
それでも、王都でエルドレッドが出会ってきた貴族令嬢は皆小柄で体が細すぎる。
エルドレッドの胸にも届かないほど小さな令嬢を見たときには、まだ子どもだろうかと思い……彼女が自分と同い年だと知って仰天したものだ。
辺境伯家に嫁ぎたいと思う令嬢は決して少なくないが、かといって軽い気持ちで選ぶわけにはいかない。ただでさえエルドレッドは体が大きくて小さな妻だと不用意に触れることで怪我をさせるかもしれないし、細い体は極寒の地で暮らすのに不向きだからだ。
そういうことで、若くとも辺境伯領主としてやっていけていると思いつつ、結婚についてはいずれなんとかしなければ……と思っていた、矢先。
『あの……?』
騎士団棟の事務官室に現れた、可憐な女性。
ピンク色の服はよくよく見ればジャケットとロングスカートだと分かるのだが、そのときのエルドレッドは北方地元民との打ち合わせから帰ってきたばかりで少々疲れていたらしく、春色のドレスだと思ってしまった。
ベージュブラウンの髪は、いわゆるハーフアップという形にまとめている。ぱっちりとした目はランバート辺境伯領の空のような淡いグレーで、困っているのか少し潤んだ目でエルドレッドを見上げている。
華奢な女性なら、王都で見たことがある。
だが彼女は今にも折れそうなほど細くて心配になってくる貴族令嬢とは違ったし、かといってアルコール度数の高い酒をガバガバ飲む北方騎士団の女性たちとも違う。
(なんだ、この可憐な姫君は……!?)
ディエゴの執務室であるはずの事務官室に舞い降りた、春の妖精。
一瞬幻かと思ったが、どう見ても現実だ。だがそれでも、ここで逃してしまえば彼女がそのまま空気の中に溶けて消えていってしまいそうに思われて、エルドレッドはその場にひざまずいた。
『これは、失礼しました。……まさかこのような場所で、あなたのような可憐なご令嬢にお会いできるとは思っておりませんでした。私は、エルドレッド・ランバートと申します。……もしかして、我が城で道に迷われたのでしょうか?』
エルドレッドが案内を申し出ると、春の妖精はエルドレッドの正体を知って驚いた様子を見せた。
だが、エルドレッドが「美しい方」と言うとぽっと顔を赤らめた。
(な、なんてかわいらしいんだ!?)
その直後現れたディエゴにより、エルドレッドは春の妖精が新人事務官であり、自分とさほど年齢が変わらないことを知った。
成人したての十八歳くらいかと思っていたが、そう思うのは彼女がまだ少女のように愛らしい顔立ちをしているからなのだろう、と分かった。
温暖な気候の王都で生まれ育った貴族令嬢に、この亜寒帯の土地は厳しすぎる。逆に、ラウハたち女性騎士は吹雪を前にしても「これくらい、そよ風同然よ!」と言うくらい強い体を持つから、そういう点では伴侶に向いている。
だが辺境伯夫人として社交に出ることを考えると、伴侶は貴族令嬢であることが望ましい。そうでないと、父と母の逆パターンの二の舞になるかもしれないからだ。
それでも、王都でエルドレッドが出会ってきた貴族令嬢は皆小柄で体が細すぎる。
エルドレッドの胸にも届かないほど小さな令嬢を見たときには、まだ子どもだろうかと思い……彼女が自分と同い年だと知って仰天したものだ。
辺境伯家に嫁ぎたいと思う令嬢は決して少なくないが、かといって軽い気持ちで選ぶわけにはいかない。ただでさえエルドレッドは体が大きくて小さな妻だと不用意に触れることで怪我をさせるかもしれないし、細い体は極寒の地で暮らすのに不向きだからだ。
そういうことで、若くとも辺境伯領主としてやっていけていると思いつつ、結婚についてはいずれなんとかしなければ……と思っていた、矢先。
『あの……?』
騎士団棟の事務官室に現れた、可憐な女性。
ピンク色の服はよくよく見ればジャケットとロングスカートだと分かるのだが、そのときのエルドレッドは北方地元民との打ち合わせから帰ってきたばかりで少々疲れていたらしく、春色のドレスだと思ってしまった。
ベージュブラウンの髪は、いわゆるハーフアップという形にまとめている。ぱっちりとした目はランバート辺境伯領の空のような淡いグレーで、困っているのか少し潤んだ目でエルドレッドを見上げている。
華奢な女性なら、王都で見たことがある。
だが彼女は今にも折れそうなほど細くて心配になってくる貴族令嬢とは違ったし、かといってアルコール度数の高い酒をガバガバ飲む北方騎士団の女性たちとも違う。
(なんだ、この可憐な姫君は……!?)
ディエゴの執務室であるはずの事務官室に舞い降りた、春の妖精。
一瞬幻かと思ったが、どう見ても現実だ。だがそれでも、ここで逃してしまえば彼女がそのまま空気の中に溶けて消えていってしまいそうに思われて、エルドレッドはその場にひざまずいた。
『これは、失礼しました。……まさかこのような場所で、あなたのような可憐なご令嬢にお会いできるとは思っておりませんでした。私は、エルドレッド・ランバートと申します。……もしかして、我が城で道に迷われたのでしょうか?』
エルドレッドが案内を申し出ると、春の妖精はエルドレッドの正体を知って驚いた様子を見せた。
だが、エルドレッドが「美しい方」と言うとぽっと顔を赤らめた。
(な、なんてかわいらしいんだ!?)
その直後現れたディエゴにより、エルドレッドは春の妖精が新人事務官であり、自分とさほど年齢が変わらないことを知った。
成人したての十八歳くらいかと思っていたが、そう思うのは彼女がまだ少女のように愛らしい顔立ちをしているからなのだろう、と分かった。