捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
『……ちなみに閣下、お仕事は大丈夫ですよね?』
じろっとこちらを見ながらの、少し咎めるかのような言い方。
あの瞬間、エルドレッドの中で何かが産声を上げた気がした。
小さくてかわいらしい、守ってあげねばと思えるような女性。
そんな彼女が疑うような怒ったような目で、見てくるなんて。
(どうしよう。俺、シャノンになら叱られてもいいかもしれない……)
とうとう記録を書く手を止めたエルドレッドは、胸を押さえてうめいた。
……シャノンに叱られてもにこにこする騎士がいるとは知っていたが、今はその気持ちが痛いほどよく分かった。
「シャノンが俺専属の事務官になってくれたらな……」
ふと、そんなことをつぶやいてしまいはっとする。
シャノンは、騎士団付事務官だ。ただでさえ人手不足なのだから彼女を引き抜くことなんてできないのだが、もしシャノンがエルドレッドの執務室付になったら。
ちゃんと仕事をすると褒めてくれるし、帰ってきたときには暖炉に薪をくべて温かい飲み物を用意してくれる。
そしてもしエルドレッドが仕事の手を抜いたら、「何をやっているのですか」とあの目つきでじろっと見ながら叱ってくれる――
「……いいなぁ」
とてもいいとは思うが、もしそうなったら自分はシャノンに叱られたいがためにわざと仕事をサボるダメ城主になる未来しか見えないし、叱られて興奮する変態の烙印を押されるに違いないので、やはり今くらいの距離感がちょうどいいと考え直した。
シャノンのことになると我ながらおかしくなると分かっているが、表には出さないようにしている。
無理矢理相談相手に据えたディエゴにはドン引きされるしいろいろ察しているゴードンには生ぬるい笑みで見つめられるのだが、当の本人であるシャノンにはばれていないようだからいいだろう。
(彼女にとっての俺は、頼もしくて格好いい城主であってほしい)
よし、とエルドレッドは気持ちを切り替え、途中で放棄していた書類に視線を落とす。
――ユキオオカミ。
「今年の行動ルートは、おかしい。……手を打つ必要があるな」
エルドレッドは、窓の外に目をやった。
もうすぐ、ランバート領は真冬を迎える。
じろっとこちらを見ながらの、少し咎めるかのような言い方。
あの瞬間、エルドレッドの中で何かが産声を上げた気がした。
小さくてかわいらしい、守ってあげねばと思えるような女性。
そんな彼女が疑うような怒ったような目で、見てくるなんて。
(どうしよう。俺、シャノンになら叱られてもいいかもしれない……)
とうとう記録を書く手を止めたエルドレッドは、胸を押さえてうめいた。
……シャノンに叱られてもにこにこする騎士がいるとは知っていたが、今はその気持ちが痛いほどよく分かった。
「シャノンが俺専属の事務官になってくれたらな……」
ふと、そんなことをつぶやいてしまいはっとする。
シャノンは、騎士団付事務官だ。ただでさえ人手不足なのだから彼女を引き抜くことなんてできないのだが、もしシャノンがエルドレッドの執務室付になったら。
ちゃんと仕事をすると褒めてくれるし、帰ってきたときには暖炉に薪をくべて温かい飲み物を用意してくれる。
そしてもしエルドレッドが仕事の手を抜いたら、「何をやっているのですか」とあの目つきでじろっと見ながら叱ってくれる――
「……いいなぁ」
とてもいいとは思うが、もしそうなったら自分はシャノンに叱られたいがためにわざと仕事をサボるダメ城主になる未来しか見えないし、叱られて興奮する変態の烙印を押されるに違いないので、やはり今くらいの距離感がちょうどいいと考え直した。
シャノンのことになると我ながらおかしくなると分かっているが、表には出さないようにしている。
無理矢理相談相手に据えたディエゴにはドン引きされるしいろいろ察しているゴードンには生ぬるい笑みで見つめられるのだが、当の本人であるシャノンにはばれていないようだからいいだろう。
(彼女にとっての俺は、頼もしくて格好いい城主であってほしい)
よし、とエルドレッドは気持ちを切り替え、途中で放棄していた書類に視線を落とす。
――ユキオオカミ。
「今年の行動ルートは、おかしい。……手を打つ必要があるな」
エルドレッドは、窓の外に目をやった。
もうすぐ、ランバート領は真冬を迎える。