捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
(……私がショックを受ける?)
一方のシャノンは、なぜエルドレッドが急におかしくなりディエゴに突っ込まれたのか、分からなかった。
自分は主君の身を案じる立場として、ごく普通のことを言っただけだ。
エルドレッドにはまだ子どもがいないのだから、彼が万が一にもユキオオカミとの戦いで命を落とすようなことがあれば跡継ぎ問題になる。そうなると、悲しいどころの話ではなくなるのだ。
(そこからどうして閣下は、「もしかしなくても」みたいなことにつなげたのかしら……?)
はて、と考えながら城内を歩いていたシャノンはふと、廊下の先から男女の声が聞こえてくることに気づいた。
(これは……ラウハ?)
片方は、女性騎士の一人であるラウハだ。毎日聞く声だから、間違いない。
相手の男性の方の声には聞き覚えがないが、ラウハが警戒しているわけではなさそうだから不審者ではなさそうだ。
「……そうか。やっぱり、ユキオオカミの調査は続けるのか」
「当然よ。あたしたち北方騎士団は、辺境伯領に暮らす全ての人の平穏のために戦うの。ユキオオカミの異常行動でその平穏が崩れそうになっているのだから、引くわけにはいかない」
ラウハの声はいつもどおり……に思えたが、なんだか少しだけ違う気がする。
いつもの彼女らしく強気ではきはきとしたしゃべり方だが……ほんの少し、甘えるような響きも含まれているように思われるのだ。
(こ、これって立ち聞きしない方がいいやつよね?)
とはいえ、シャノンの目的地である事務官室はこの廊下の先にある。別の道を使って行くことも可能だが、大回りになる。
(ど、どうしよう、一旦引いた方が……わっ、こっちに来ている!?)
おろおろしていると、なんと二人の方からこちらに近づく足音が聞こえてきた。シャノンは慌てて辺りを見回し、廊下にちょうどいい感じの柱の陰があることに気づいてさっとそこに身を滑らせた。
柱は大きくてシャノンは小柄なので、すっぽり身を隠せた。
その直後、ラウハと連れの男性が先ほどシャノンが立っていた場所までやってきた。シャノンの位置からだと柱の隙間から、相手の男性の横顔だけ見えた。
(やっぱり知らない人……だけど、服装からして本城で働く使用人かしら?)
「もちろん、君の信念はよく分かっているよ。……そんな君だから、僕はラウハのことが好きになったんだ」
(わあっ!?)
男性の言葉に、シャノンは思わず声を上げそうになって慌てて口を両手で塞いだ。
(そ、そういえばラウハ、彼氏がいるって言っていたけれど……)
きっと、この男性がラウハの恋人なのだ。頬を赤らめてラウハをじっと見つめる横顔からして、間違いない。
「でも、君の体に傷が増えるたびに吐きそうなほど苦しくなるんだ。僕は強くて格好いい君が好きなのに、もうこれ以上戦わないでって言いたくなる」
「ハンネス……」
「ごめん、ラウハ。僕みたいな優柔不断な男が恋人で――」
その後の男性の言葉は、声にならなかった。
なぜなら彼の襟元がぐいっと引っ張られ、ラウハにキスされたからだ。
一方のシャノンは、なぜエルドレッドが急におかしくなりディエゴに突っ込まれたのか、分からなかった。
自分は主君の身を案じる立場として、ごく普通のことを言っただけだ。
エルドレッドにはまだ子どもがいないのだから、彼が万が一にもユキオオカミとの戦いで命を落とすようなことがあれば跡継ぎ問題になる。そうなると、悲しいどころの話ではなくなるのだ。
(そこからどうして閣下は、「もしかしなくても」みたいなことにつなげたのかしら……?)
はて、と考えながら城内を歩いていたシャノンはふと、廊下の先から男女の声が聞こえてくることに気づいた。
(これは……ラウハ?)
片方は、女性騎士の一人であるラウハだ。毎日聞く声だから、間違いない。
相手の男性の方の声には聞き覚えがないが、ラウハが警戒しているわけではなさそうだから不審者ではなさそうだ。
「……そうか。やっぱり、ユキオオカミの調査は続けるのか」
「当然よ。あたしたち北方騎士団は、辺境伯領に暮らす全ての人の平穏のために戦うの。ユキオオカミの異常行動でその平穏が崩れそうになっているのだから、引くわけにはいかない」
ラウハの声はいつもどおり……に思えたが、なんだか少しだけ違う気がする。
いつもの彼女らしく強気ではきはきとしたしゃべり方だが……ほんの少し、甘えるような響きも含まれているように思われるのだ。
(こ、これって立ち聞きしない方がいいやつよね?)
とはいえ、シャノンの目的地である事務官室はこの廊下の先にある。別の道を使って行くことも可能だが、大回りになる。
(ど、どうしよう、一旦引いた方が……わっ、こっちに来ている!?)
おろおろしていると、なんと二人の方からこちらに近づく足音が聞こえてきた。シャノンは慌てて辺りを見回し、廊下にちょうどいい感じの柱の陰があることに気づいてさっとそこに身を滑らせた。
柱は大きくてシャノンは小柄なので、すっぽり身を隠せた。
その直後、ラウハと連れの男性が先ほどシャノンが立っていた場所までやってきた。シャノンの位置からだと柱の隙間から、相手の男性の横顔だけ見えた。
(やっぱり知らない人……だけど、服装からして本城で働く使用人かしら?)
「もちろん、君の信念はよく分かっているよ。……そんな君だから、僕はラウハのことが好きになったんだ」
(わあっ!?)
男性の言葉に、シャノンは思わず声を上げそうになって慌てて口を両手で塞いだ。
(そ、そういえばラウハ、彼氏がいるって言っていたけれど……)
きっと、この男性がラウハの恋人なのだ。頬を赤らめてラウハをじっと見つめる横顔からして、間違いない。
「でも、君の体に傷が増えるたびに吐きそうなほど苦しくなるんだ。僕は強くて格好いい君が好きなのに、もうこれ以上戦わないでって言いたくなる」
「ハンネス……」
「ごめん、ラウハ。僕みたいな優柔不断な男が恋人で――」
その後の男性の言葉は、声にならなかった。
なぜなら彼の襟元がぐいっと引っ張られ、ラウハにキスされたからだ。