捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
(ひゃーーーーーっ!?)
柱の陰なのでキスシーンそのものは見えなかったが、ラウハが恋人を引き寄せてキスしたのだということは動きで分かってしまった。
「……ごめん、なんて言わないでよ」
「ラウハ……」
「あたしね、ハンネスが今そう言ってくれてすっごく嬉しい! あたしの誇りを肯定しながらも、怪我することを心配してくれるのが……すっごく嬉しいの」
ラウハの声は、弾んでいる。どう考えても、優柔不断な恋人に苛立っている様子ではない。
「ありがとう、ハンネス。……あたしやっぱり、ユキオオカミ調査を続ける」
「……」
「でも、絶対無事に帰る。もしあたしの体に傷が増えても……それでも、嫌いにならないでくれる?」
「ラウハ……ああ、もちろんだ! 愛している!」
感極まった様子の男性がラウハに飛びついたらしく、いよいよ二人の姿はシャノンの視界から消えた。
そのまま二人の足音は遠ざかっていったので、互いを想うが故の喧嘩に発展することなく仲よく去っていったようだ。
二人の足音が完全に遠のいても、シャノンは柱の陰から動けなかった。
(……びっっっっくりしたぁ!)
もう声を抑えなくてもいいのに、口元から両手を離すことができない。ともすれば、「きゃあ」みたいなかわいいものではない、奇声を上げてしまいそうだから。
シャノンが驚き戸惑っている理由の一つは、言わずもがな友人の恋愛場面を見てしまったからだ。
ラウハに恋人がいるというのは知っていたが、まさか恋人とのやりとりを垣間見てしまい……しかも女性の方がリードする形でキスをするなんて、元とはいえ貴族令嬢のシャノンにはやや刺激が強かった。
明日、どんな顔をしてラウハに会えばいいのだろうか。
……こちらについても十分シャノンを困惑させたが、それ以上の問題もあった。
先ほど、シャノンは気づいてしまった。
ラウハに恋する男性の横顔が、誰かに似ていたことに。
頬を赤らめ、恥じらいと喜びがない交ぜになったような、甘い表情。
本当に好きな人の前でしか見せないような、何かを期待するかのような眼差し。
……それを、シャノンもつい先ほど目の前で見たばかりだったのだ。
『そうか。……そうか。それはもしかしなくても――』
先ほどの、エルドレッドの言葉。
途中でディエゴの突っ込みが入ったので最後まで聞くことはできなかったが、あのときのエルドレッドも今の青年と同じような表情をしていた。
あれは、恋をする人の眼差し。
『閣下はシャノンが心配してくれていることが嬉しいあまり、少し混乱されているようだ』
ディエゴはそう言っていたが、きっとエルドレッドは混乱していたわけではなくて――
『邪魔をするな!』
『あのまま放っておいてショックを受けるのはシャノンの方でしょう』
……エルドレッドとディエゴのやりとりの前に、自分のどういう発言がエルドレッドをおかしくさせたのだったか。
それは確か……エルドレッドは結婚がまだで、跡継ぎも産まれていないということ。
『それはもしかしなくても――』
「あ……」
かちり、と頭の中でつながってしまった。
柱の陰なのでキスシーンそのものは見えなかったが、ラウハが恋人を引き寄せてキスしたのだということは動きで分かってしまった。
「……ごめん、なんて言わないでよ」
「ラウハ……」
「あたしね、ハンネスが今そう言ってくれてすっごく嬉しい! あたしの誇りを肯定しながらも、怪我することを心配してくれるのが……すっごく嬉しいの」
ラウハの声は、弾んでいる。どう考えても、優柔不断な恋人に苛立っている様子ではない。
「ありがとう、ハンネス。……あたしやっぱり、ユキオオカミ調査を続ける」
「……」
「でも、絶対無事に帰る。もしあたしの体に傷が増えても……それでも、嫌いにならないでくれる?」
「ラウハ……ああ、もちろんだ! 愛している!」
感極まった様子の男性がラウハに飛びついたらしく、いよいよ二人の姿はシャノンの視界から消えた。
そのまま二人の足音は遠ざかっていったので、互いを想うが故の喧嘩に発展することなく仲よく去っていったようだ。
二人の足音が完全に遠のいても、シャノンは柱の陰から動けなかった。
(……びっっっっくりしたぁ!)
もう声を抑えなくてもいいのに、口元から両手を離すことができない。ともすれば、「きゃあ」みたいなかわいいものではない、奇声を上げてしまいそうだから。
シャノンが驚き戸惑っている理由の一つは、言わずもがな友人の恋愛場面を見てしまったからだ。
ラウハに恋人がいるというのは知っていたが、まさか恋人とのやりとりを垣間見てしまい……しかも女性の方がリードする形でキスをするなんて、元とはいえ貴族令嬢のシャノンにはやや刺激が強かった。
明日、どんな顔をしてラウハに会えばいいのだろうか。
……こちらについても十分シャノンを困惑させたが、それ以上の問題もあった。
先ほど、シャノンは気づいてしまった。
ラウハに恋する男性の横顔が、誰かに似ていたことに。
頬を赤らめ、恥じらいと喜びがない交ぜになったような、甘い表情。
本当に好きな人の前でしか見せないような、何かを期待するかのような眼差し。
……それを、シャノンもつい先ほど目の前で見たばかりだったのだ。
『そうか。……そうか。それはもしかしなくても――』
先ほどの、エルドレッドの言葉。
途中でディエゴの突っ込みが入ったので最後まで聞くことはできなかったが、あのときのエルドレッドも今の青年と同じような表情をしていた。
あれは、恋をする人の眼差し。
『閣下はシャノンが心配してくれていることが嬉しいあまり、少し混乱されているようだ』
ディエゴはそう言っていたが、きっとエルドレッドは混乱していたわけではなくて――
『邪魔をするな!』
『あのまま放っておいてショックを受けるのはシャノンの方でしょう』
……エルドレッドとディエゴのやりとりの前に、自分のどういう発言がエルドレッドをおかしくさせたのだったか。
それは確か……エルドレッドは結婚がまだで、跡継ぎも産まれていないということ。
『それはもしかしなくても――』
「あ……」
かちり、と頭の中でつながってしまった。