捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる

エルドレッドのお願い

 エルドレッドと北方騎士団によるユキオオカミ調査作戦は、真冬を過ぎた頃に決行されることになった。

 寒さのピークはひとまず過ぎたとはいえ、連日雪が降っているし気温も氷点下になる日が続いている。それでも、この辺境伯領で生まれ育った騎士たちにとっては「前よりは動きやすくなった」と思える状況らしい。

 エルドレッドは「目星」について十分に事前準備をしたそうで、今回の作戦はうまくいけば一日で決着が付くという。

(皆、無事で帰ってきてほしいわ……)

 非戦闘員で城で待つことしかできないシャノンは、騎士たちのためにできることはないだろうかと考えた。
 そうして城の下働きの女性たちに相談したところ、「この地に古くから伝わるお守りを作ってはどうか」と提案してもらった。

 王国に併合されるよりも前、ここら一帯は争いが絶えない地域だった。そのため古くから戦士たちの無事を祈るためのお守り作りが盛んで、今でも伝統文化兼願かけとして伝わっているそうだ。

 お守りは布に刺繍糸で特定の文様を描くことで作るらしい。シャノンは裁縫なども初体験だが女性たちは針への糸の通し方や縫い方を丁寧に教えてくれて、「あんたみたいなかわいい天使が一生懸命作ったと言えば、皆喜んで受け取ってくれるさ」と励ましてもらった。

 裁縫担当の女性たちから余りの布や糸を譲ってもらい、シャノンは騎士たちの出発の日まで、毎日仕事の後で部屋にこもって必死に針を動かした。

 今回出陣するのは正騎士のうち約半数である十六名と、お付きと実地経験を兼ねた見習い騎士五人、そしてエルドレッドだ。調査隊の隊長はエルドレッド、副隊長がディエゴという形だという。

 せっかくだからお守りは一人一つずつ布や糸の色、形を変えることにして、合計二十二枚をシャノンは必死で仕上げた。

 ……そのうちエルドレッドとラウハの分に少しだけ力を入れてしまったのは、仕方のないことだろう。
< 49 / 74 >

この作品をシェア

pagetop