捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる

見当違いの復讐心

 翌朝、シャノンは早起きをしてしっかり着込み、城門前に立っていた。

「おはようございます」
「……あっ、天使さんだ!」
「おはようございます、シャノンさん!」

 門番に声をかけると、夜勤明けの彼らは一瞬けだるげな視線をこちらに向けたが、シャノンが手を振るとぱっと笑顔になった。

 まだ十代後半だろう彼らは防寒のための帽子を被り毛皮のコートを着て、城門の警備に当たっている。夜間警備は若手の仕事になるらしいとは聞いていたが、徹夜だからか眠そうだし鼻の先が真っ赤になっている。

「おつとめお疲れ様です。今朝も寒いですね」
「ありがとうございます! でも自分たちはここで生まれ育ったので、これくらいへっちゃらです!」
「俺たちより、シャノンさんの方が心配です! 今日は幸運にも雪は収まっていますが、朝からこんなところに来たら凍えますよ!」
「……それでも、様子を見たくて」

 シャノンが真っ暗なうちから起床して身仕度をしたのは、エルドレッドたちを出迎えるためだ。

 早ければ今日の朝に戻ってこられるだろうと、ディエゴは言っていた。もしそうなら、誰よりも早く彼らの無事を確かめたい。

 シャノンの言葉に、門番たちは納得したような顔をした。……片方の門番はシャノンには見えないようにしつつも残念そうな顔をしたので、隣の相棒に小突かれていた。

「そうですか。中なら温かいのですが、やっぱりここがいいですか?」
「はい。できる限りここで見ていたいです」
「そういうことなら、分かりました」
「でもさすがに立ちっぱなしはきついので、これどうぞ!」

 そう言って門番が詰め所に入り、小さな椅子を抱えて戻ってきた。
 防寒対策はしているが確かにずっと立ちっぱなしは堪えそうなので、ありがたく椅子を受け取って門の横に置き、そこに座らせてもらうことにした。

(夜が、明けてきたわ……)

 藍色だった夜空が次第に色づき、水色の空が見えてくる。ここ数日ずっと雪が降りっぱなしだったので、青い空を見るのもかなり久しぶりだ。

「おっ、晴天」
「こりゃあ間違いなく、閣下たちは無事に戻ってこられるな」
「そうなのですか?」

 門番たちの話にシャノンが割って入ると、彼らはにっこり笑った。

「はい! この土地に伝わるジンクスみたいなものなんです」
「うちの冬は、ほとんどが曇りか雪でしょう? だから青空が見えたらそれは、いいことが起こる前兆だって言われるんです」
「今うちの城の者にとっての『いいこと』っていったらそりゃあ、閣下や北方騎士団員たちが皆無事で帰ってくることに決まっています! だから大丈夫ですよ、シャノンさん」
「……そう、ですね」

 二人に励まされて、シャノンは微笑んだ。

 ジンクスはジンクスかもしれないがシャノンにとっては嬉しい情報だし、雪が止んで空が晴れるというのはエルドレッドたちにとっても都合がいいはずだ。

(早く、お姿を見たい……)

 エルドレッドの『ご褒美』の件もあるがそれはともかくとしても、まずはエルドレッドやディエゴ、ラウハたちが無事に帰ってくるのが一番だ。その他諸々のことは、後で考えればいい。

 ――と。
 それまでは少し気を抜いた感じだった門番二人が、ほぼ同時に身構えた。
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