捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
「ご、ごめんなさい!」
「いや、まだ足腰が立たないのだろう。……ディエゴ、この場のことは任せていいか」
エルドレッドに問われたディエゴはこちらを見て、やれやれとばかりに肩をすくめた。
「……嫌ですと言える雰囲気じゃないですよね。まあ、そうなるのは予想できていたから大丈夫です。閣下は、シャノンをお願いします」
「助かる。……さあ、行こう」
「えっ……きゃあっ!?」
ディエゴの許可を取るなり、エルドレッドは立ち上がり――まるでそのついでだとばかりにひょいっとシャノンを抱えた。
ついさっきまでエルドレッドの肩に掴まるように立っていたのに、一呼吸の間に彼に抱きかかえられていた。
(た、高い!?)
一気に高所に抱き上げられたのでシャノンが思わずエルドレッドの肩に両腕を回してしがみつくと、「それがいい」とエルドレッドは満足そうにうなずいた。そしてシャノンを抱えたままきびすを返し、城の方へのしのしと歩き始めた。
(……えっ。まさか、このまま城に行くおつもり……!?)
「ま、待ってください、閣下!」
「言葉ならいくらでも待つが、歩くのは待てないな」
「だめです! こ、ここは街のど真ん中じゃないですか!」
そう、シャノンがエルドレッドたちの帰還を待つために立っていた門は、城とその周囲の街を囲む門だった。
つまりここから城までそれなりの距離があるし、積雪期の早朝とはいえ今日は天気もいいので、朝から表に出て雪かきをしている人もいる。
そんな人たちの前を、しかもかなりの距離を抱えて歩くなんて、とシャノンは説き伏せようとしたが、エルドレッドは「なんだ、それくらいのことか」とあっけらかんとしている。
「私は体力があるから、シャノンを抱えたまま城どころか山登りでもできるくらいだから、安心してくれ。それに……ほら、誰も私たちのことを悪く言ったりしないさ」
エルドレッドが顔を向けた先にはちょうど、雪かきの手を止めてこちらを見る街の人々の姿があった。
大きなシャベルを手にした中年女性と、雪を乗せて運ぶためのそりの持ち手に手をかける男性。夫婦らしき彼らはにこにことこちらを見ており、「あらまぁ、ご無事でよかったわ、閣下」「閣下のもとに一足先に、春が来ましたか!」と声をかけてきた。
他にも、雪で遊んでいる子どもたちがこちらを見て「おひめさまだっこだー!」「あの後でちゅーするんでしょ、ちゅー!」と囃してくる。
(いやいや、悪くは言われないけれど目立っているわよ!)
耐えられずにシャノンが顔を隠すべくエルドレッドの胸に顔を押しつけると、彼は朗らかに笑った。
「ああ、これもいいな。恥じらうシャノンの顔を見ていいのは、私だけだ」
「そういう意味じゃありません……」
「まあ、いいではないか。それに……早く城に帰ってあなたの手当てをして、それから『ご褒美』の話もしたいからな」
エルドレッドがそんなことを言うので、ついシャノンは全身をびくっと震わせてしまった。
そろそろと顔を上げると、とてもいい笑顔を浮かべたエルドレッドが。
「……『ご褒美』について、考えてくれたかな?」
「いや、まだ足腰が立たないのだろう。……ディエゴ、この場のことは任せていいか」
エルドレッドに問われたディエゴはこちらを見て、やれやれとばかりに肩をすくめた。
「……嫌ですと言える雰囲気じゃないですよね。まあ、そうなるのは予想できていたから大丈夫です。閣下は、シャノンをお願いします」
「助かる。……さあ、行こう」
「えっ……きゃあっ!?」
ディエゴの許可を取るなり、エルドレッドは立ち上がり――まるでそのついでだとばかりにひょいっとシャノンを抱えた。
ついさっきまでエルドレッドの肩に掴まるように立っていたのに、一呼吸の間に彼に抱きかかえられていた。
(た、高い!?)
一気に高所に抱き上げられたのでシャノンが思わずエルドレッドの肩に両腕を回してしがみつくと、「それがいい」とエルドレッドは満足そうにうなずいた。そしてシャノンを抱えたままきびすを返し、城の方へのしのしと歩き始めた。
(……えっ。まさか、このまま城に行くおつもり……!?)
「ま、待ってください、閣下!」
「言葉ならいくらでも待つが、歩くのは待てないな」
「だめです! こ、ここは街のど真ん中じゃないですか!」
そう、シャノンがエルドレッドたちの帰還を待つために立っていた門は、城とその周囲の街を囲む門だった。
つまりここから城までそれなりの距離があるし、積雪期の早朝とはいえ今日は天気もいいので、朝から表に出て雪かきをしている人もいる。
そんな人たちの前を、しかもかなりの距離を抱えて歩くなんて、とシャノンは説き伏せようとしたが、エルドレッドは「なんだ、それくらいのことか」とあっけらかんとしている。
「私は体力があるから、シャノンを抱えたまま城どころか山登りでもできるくらいだから、安心してくれ。それに……ほら、誰も私たちのことを悪く言ったりしないさ」
エルドレッドが顔を向けた先にはちょうど、雪かきの手を止めてこちらを見る街の人々の姿があった。
大きなシャベルを手にした中年女性と、雪を乗せて運ぶためのそりの持ち手に手をかける男性。夫婦らしき彼らはにこにことこちらを見ており、「あらまぁ、ご無事でよかったわ、閣下」「閣下のもとに一足先に、春が来ましたか!」と声をかけてきた。
他にも、雪で遊んでいる子どもたちがこちらを見て「おひめさまだっこだー!」「あの後でちゅーするんでしょ、ちゅー!」と囃してくる。
(いやいや、悪くは言われないけれど目立っているわよ!)
耐えられずにシャノンが顔を隠すべくエルドレッドの胸に顔を押しつけると、彼は朗らかに笑った。
「ああ、これもいいな。恥じらうシャノンの顔を見ていいのは、私だけだ」
「そういう意味じゃありません……」
「まあ、いいではないか。それに……早く城に帰ってあなたの手当てをして、それから『ご褒美』の話もしたいからな」
エルドレッドがそんなことを言うので、ついシャノンは全身をびくっと震わせてしまった。
そろそろと顔を上げると、とてもいい笑顔を浮かべたエルドレッドが。
「……『ご褒美』について、考えてくれたかな?」