捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる

『ご褒美』の行方

 結局シャノンはエルドレッドに抱えられたまま街の大通りを凱旋し、城の医務室まで運ばれた。
 到着したときもエルドレッドは息一つ乱していなくて、彼に抱えられて楽をしたはずのシャノンの方が緊張と恥ずかしさで息も絶え絶えだった。

 医師が診察してくれたのだが、シャノンの首の怪我はごく浅いものだった。だが念のために傷口を洗って消毒し、化膿止めの薬を塗られた。

 治療を受ける間は念のために服を脱ぐ必要もあったし、エルドレッドもユキオオカミ調査の後処理をしなければならないので席を外し、治療が終わって湯たんぽを与えられぬくぬくとしているときに戻ってきた。

「シャノン、入ってもいいか」
「はい、どうぞ、閣下」

 医師が出て行った後、ブランケットに頭からくるまって温もっていたシャノンは、頭のブランケットを下ろしてから応じた。

 入室したエルドレッドは今の間に武装を解いたらしく、普段見かけるときと同じジャケット姿になっていた……が、彼はソファに座るシャノンを見てなぜか天井を仰いだ。

「シャノンが……もこもこふわふわになっている……」
「えっ。あ、すみません。体を温めるようにと言われましたので」
「いや、いい、そのままでいい。……そうか。ふわふわもこもこも……いいな……」

 慌ててブランケットを外そうとしたら止められたのでそのままにしたが、エルドレッドは何やら「シャノンとふわもこ……」とつぶやいている。大丈夫なのだろうか。

 エルドレッドはシャノンの向かいに座り、じっとこちらを見てきた。

「医師からは、跡の残るような怪我ではなかったと聞いているのだが」
「はい。閣下のおかげで軽傷で済みました」
「そうか。……シャノンを助けることになったのなら、得意ではないものの頑張って習得した弓術が役に立ったようで私も嬉しい」

 エルドレッドはそう言って、微笑んだ。
 そうかもしれないとは思っていたが、密猟者の男が振り上げた剣を弾いたり腕を射たりした矢は、エルドレッドが放ったようだ。

 さすがにあの場ではそんなことを考える余裕はなかったが、矢を射るときのエルドレッドはきっととても格好よかっただろう。

(……って、そういうのはいいから!)

 つい弓矢を構えるエルドレッドを想像しそうになったシャノンは自分を叱咤し、咳払いをした。
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