捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
 自分が言い出したことなのに緊張していると、エルドレッドが「シャノン」とどこか神妙な声で言った。

「私はどうやら自分の感情を隠すのが苦手なようで、これまで散々ディエゴやゴードンたちにからかわれてきた。だから……きっと、あなたも気づいているのだと思う。でも、きちんと言わせてくれ」
「は、はい!」
「シャノン、好きだ。かわいくて一生懸命で怒った顔もいっそう魅力的なあなたが、大好きだ」

 甘くて優しい声音で囁かれて、シャノンの肩がびくっと震えた。

 まさに、愛の告白。
 途中で異物が混入していた気もするが、そこまで気にならない。

(やっぱり……そうだった)

 そうかもしれない、とは思っていた。

 エルドレッドはシャノンのことが好きで、結婚とかのことも考えているのかもしれない、と耳年増なシャノンは想像していた。

 ……それは、本当だった。
 エルドレッドは、故郷で『壁令嬢』と呼ばれ捨てられたシャノンのことを、好きになってくれた。

「……嬉しいです、閣下」
「で、では!」
「私も、あなたのことが好きです。……好きなのだと、ごく最近気づきました」

 そう、あの、ラウハと恋人の密会場面を見たとき。
 ラウハの恋人とエルドレッドが全く同じ表情をしていたことがきっかけで、気づいてしまった。

(私も……閣下のことが、好き)

 この、温かくて優しい気持ちにつける名前に。

 エルドレッドは青色の目を見開くと口元を手で押さえ、そこから野犬のような低いうなり声をもらした。

「どうしよう……ものすごく、嬉しい……! ああ、シャノンも同じ気持ちでいてくれるだなんて!」
「閣下……」
「私のことはどうか、エルドレッドと呼んでくれ」
「分かりました。エルドレッド様」

 初めて名前を呼ぶことになり少し恥ずかしがりながらも言うと、エルドレッドは「いいな……すごくいいな……」とつぶやいた。

「それから、だな。あなたの首の傷が痛むようなら後日でいいのだが……口づけを、してもいいだろうか」
「っ、はい! 是非今、してください!」

 遠慮しつつ尋ねられたので、シャノンの方からがっつり食いついた。
『ご褒美』のことをしっかり考えている今のシャノンからすると、ファーストキスはまさにウェルカム状態である。

 許可をもらったエルドレッドはふーっと大きく息を吐き出し、シャノンの両頬に手を添えた。
 彼の大きな手に挟まれるとそれだけでなんだか安心できて硬い手のひらに頬ずりをすると、「あまり私を煽るな……」とかすれた声で懇願された。
< 62 / 74 >

この作品をシェア

pagetop