捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
 ドアをしっかり閉めたシャノンはふーっと大きな息を吐き出して服の襟元を引っ張り、そこから見える「勝負下着」をちらっと見た。

(これが活躍するのは、また後日ね。……お姉様やオリアーナの言葉を、信じるんじゃなかったわ!)

 そうして遠く離れた地にいる姉と妹に八つ当たりをしていたシャノンだが、いきなりドアがばんっと開いたため飛び上がってしまった。

「シャノン!」
「わあっ!?」

 振り返った先にいたのは、エルドレッド。先ほど別れたばかりの彼だが顔は真っ赤で、やけにいい笑顔をしている。

「さっき、あなたは『せっかく着たのに』と言ったな!? それはもしかして……き、期待していたのではないか?」

 エルドレッドの熱のこもった問いに、まずい、とシャノンの背中をたらりと冷や汗が伝う。

 どうやら彼は先ほどのシャノンの失言をしっかり聞いており、自分の頭の中で「正解」を叩き出してしまったようだ。

 鼻息の荒いエルドレッドが部屋の中に戻ってきそうだったので、シャノンは悲鳴を上げて彼をドアの外に押し戻した。

「何でもないです! な、ん、で、も、な、い、で、す!」
「そんなはずはないだろう! ……すまない、シャノン。私がふがいないばかりに!」
「そんなことないです! いいからもう、忘れてください!」
「忘れられるものか! シャノン、そ、その、あなたは今、とてもすごいものを服の下に着ているのでは……」
「違います! その、今日はもうだめです、なしです!」

 違わなくはなくむしろ大正解なのだが、今はもうそういう流れではない。
 それでもエルドレッドは諦めきれないようで、部屋から押し出されながらも悲痛な訴えを続けている。

「頼む、シャノン! 見せてくれないのなら……せめて、色だけでも……!」
「エルドレッド様の駄犬ー!」

 シャノンは叫んで、残念な美丈夫となってしまった恋人を部屋から叩き出したのだった。






 その後、騒ぎを聞きつけて飛んできた医師によってエルドレッドはこっぴどく叱られ、話を聞いたディエゴには「若気の至りにも限度があります」と呆れられたそうだ。

 シャノンはそれを聞いてさすがにかわいそうだと思ったので、その日の夜エルドレッド付書記官に小さな封筒を渡した。

 その封筒の中には紙切れ一枚だけ入っており、そこには「青」と書いていた。
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