捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
 家名なしのシャノンがランバート辺境伯家当主であるエルドレッドと婚約したという話は、翌日には城中に広まった。

 その反応は八割が「おめでとう」「やっとか」「そうなると思っていた」という肯定的なもので、シャノンはたくさんの人から祝福された。

 なお残りの二割も「よくもエルドレッド様を!」という類いではなくて、シャノンの熱心なファンたちがしくしく悲しんでいたものだったと、ラウハたちが教えてくれた。
 それも、シャノンに恋をしているというよりは「みんなのアイドルが当主様だけのものになってしまった」というものらしい。シャノンには、もうよく分からない。

 いずれ結婚をすると決めた上での恋人期間ではあるが、シャノンは結婚ぎりぎりまでは騎士団棟で働きたいと申し出た。
 せっかくディエゴに採用してもらい、まだ半年も経っていないというのにもう引退するというのは方々に対して申し訳ないし、シャノンももっと事務官として働きたいと思っていた。

 これに対してエルドレッドは即答で認めてくれたものの、住居だけはこれまでの騎士団棟から本城にある特別室にするようにと言ってきた。
 結婚はまだなので当然寝室も別だが、シャノンをできるだけ自分のそばに置いておきたい、というエルドレッドの独占欲の現れだ。これくらいならかわいいものなので、シャノンも受け入れている。

 こうして辺境伯城内ではとんとん拍子に話が進むが、シャノンの恋人は平民ではなくて王国北部を守る辺境伯領の領主。その体には王家の血も流れており、非常に遠いものの王位継承順位さえ持つ生粋の貴族だ。

 そういうわけで、エルドレッドはシャノンとの婚約を国に報告する義務があった。それは書面で終わらせてもいいのだが、諸事情も鑑みた結果二人で王都に赴くことに決めた。

 冬の間はユキオオカミと密猟者の事件の後始末や今後の対策を構築すること、それからエルドレッドがシャノンとイチャイチャ恋人期間を満喫したいというのでそれに付き合うのに消費し、春になって雪が解け、南へ続く道が開かれてから王都に向かうことになった。
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