捨てられた『壁令嬢』、北方騎士団の癒やし担当になる
 ひとまず、最初は奥のカウンターに行くべきだと分かったので、そちらに向かう。

(……あっ。カウンターは三種類あるわ)

 よく見るとカウンターは三つに分かれていて、それぞれにプレートが下がっている。字が満足に読めない人もいるからか地図のイラスト付きで、一つは「王都内」、一つは「王都近郊」、もう一つは「王国各地」と書かれている。

(なるほど。どこで働くかで最初の受付が違うのね)

 さすがにここまでは先生も教えてくれなかったが、ここから先はシャノンが手探りをしつつ自力で学ぶべきだ。

 シャノンは「王都近郊」と「王国各地」で悩んだ末に、まずは「王都近郊」のカウンターに向かうことにした……が、シャノンの後ろから走ってきた中年女性が一足先に目的のカウンターに突撃し、「ちょっと! 前紹介された仕事だけど!」と大声でまくし立て始めた。

 求人が多いからか「王都内」のカウンターには受付が三人いるが、「王都近郊」と「王国各地」には一人ずつしかいない。
 中年女性の相手をする女性受付は笑顔でやりとりをしつつ、カウンター脇に置いていた「空き」のボードを片手でひっくり返し、「応対中」に変えた。

(……時間がかかりそうね)

 ちらと隣の「王国各地」を見ると、そこの受付は暇そうに自分の髪をいじっていた。

(いっそ、王都から遠く離れた場所もいいかも?)

 それこそ先生の言う、「大当たり」に巡り会えるかもしれない。何にしても、ぶつかってみなければ話は始まらない。

「……あの。仕事を探しているのですが」

 緊張しつつシャノンが受付の女性に声をかけると、人差し指に髪の毛をくるくる巻き付けていた女性は「会員? それとも初めてさん?」とけだるげに問うてきた。

 初めてだと言うと会員登録のために名前や住所を聞かれてしまい、言葉に詰まってしまう。だが女性は「言えるのだけでいいよ。まあ、紹介できる仕事は限られるけれど」と言った。

 ひとまずシャノンという名前と性別、年齢だけを答えて、カードを作ってもらう。カードといっても、木の板に雑な字で名前が書かれているだけのものだったが。

「じゃ、あっちにある求人一覧を見てきていいよ。といっても、王国各地から来るものなんてしれてるけど」

 女性はそう言い、「早く行け」とばかりに手を振った。

 女性に追いやられる形で、シャノンは求人一覧のボードのところに行った。

(確かに、王都内や王都近郊より、数が少ないわね……)

 先ほど男性二人が揉めていた「王都内」には様々な色の求人表が貼られていて、「王都近郊」のボードにも二十枚近くは貼られているが、こちらのボードには両手の指で数えられるほどの求人票しかない。
 それも見るからに古いものもあり、やはり王都の求人ギルドでは限界があるのだと思われた。
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