狂気のお姫様
「東堂さん、ひどいよ…。浅田くんにエミちゃんがいるって知ってて近づいたの…?」

ほぉ、そう来るか。エミという女は被害者とでもいうふうに泣き続ける。なんだこの茶番。

しかしそれに答えたのは浅田くんだった。

「違うんだ。東堂さんとは話したことなくて、俺が一目惚れしたんだ」

おぉ、よく言ったぞ浅田。ちょっと見直した。まだ私と付き合いたいという気持ちは残っている様子。

周りの人も、それは聞いていたのか何も疑問には思っていないようだ。

「え…?そうなの?私てっきり…」

「いや、鹿島さんは悪くないよ…」

「なんで私と付き合ってるのにこの女に一目惚れするのよ!!!」

しゅんとする鹿島さんを浅田くんがなだめると、エミという女はまた喚き出す。ヒステリックだなー。

「ごめんエミ。これが運命だと思うんだ」

黙れクズ~、そして笑うな小田~。

「ごめんね東堂さん…私ったら…」

「あ、だいじょぶだよ~」

「もう、それは浅田くんが悪いよっ。エミちゃんは大事な友達なのに!傷つけないで!!」


プクリと頬を膨らませる鹿島さんに、男どもの頬が赤くなるのが分かる。見事に騙されてんな。


「でも、やっぱり東堂さんも悪いと思うの…」

「はい?」


今私の疑いは晴れたでしょ?というように首を傾げる。何言ってんだコイツ。


「私の友達のカオリちゃんの彼氏とったでしょ…?一緒にホテル行ったの見たの。カオリちゃんすごく傷ついてた…。だから、そういうことするから疑われるんだと思うの」


如何にも純粋そうな目でこちらを真っ直ぐ見る鹿島さん。カオリとは、うん。今日私がコテンパンにやっつけたあの女だな。

再び疑いの目が私に向けられる。

だけど、ざーんねん。私を悪者にしようなんざ、100年早いわ。


「うーん、そのことだけど、カオリちゃんが誤解だったみたい、って謝ってくれたよ?」

「…えっ」

少しだけ目を見開く鹿島さん。カオリたちはまだ校舎裏で伸びていると思う。それか帰ったか。そりゃあんな顔見せられないわな。


「私の勘違いで悪者にしちゃってごめんね、って謝ってくれたの」

「そ、そうなの」

「だって私、自分が好きになった人と付き合いたいし、ホテル?とかそういうとこも行ったことないし、もし行くとしても好きな人としか行かないよ」

ニコッと笑うと、「やっぱり東堂さんは綺麗だよな」「東堂さんがそんなことするはずないよな」とコソコソ声が聞こえる。


これでまたしても疑いは晴れた。

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