狂気のお姫様
「あとさっき言ってたけどさ、私?と思われる人とカオリちゃんの彼氏がホテル入ってるとこ見たんだよね…?てことは、あなたもそういうとこ行ってるってこと?」
うーん、と唸りながら純粋そうな目でコテンと首を傾げると、しまった、というふうに鹿島さんは取り乱す。
確かに、ホテルとか、そういうところがあるとこにいないと、そんな現場見ないだろう。「まさか鹿島さんが…?」「嘘だろ…」「でもさっき見たって言ってたよな」と今度は鹿島さんを疑う声が聞こえる。
「ひどい…私そんなとこ行ってないよ…。さっきは言い間違えて…!友達がっ、友達が見たって言ってて…」
グスンッと目をうるうるさせながら悲しそうな顔を見せる鹿島さん。あら、一筋縄ではいかないね。
「あ、そう。じゃあその友達さんが見間違えたようだね」
とりあえず今は私の疑いを晴らすことが先決だったので、鹿島がどうなろうとどうでもいい。
「あ、あとね」
そして1つ思い出したかのようにまた鹿島さんへ視線を向ける。
目をうるうるさせながら首を傾げる仕草は、小動物のようで男どもも目がハートだ。
「ごめんね、あなた誰?」
「…は?」
口元がピクリと動いたのに気づいたのは、私と小田だけだろう。
「あ、ごめんね、もしかして知り合いだった?私の名前知ってたから…」
小田が口に手をあてながら小さい声で「やめてふく」と呟く。楽しめているようで何よりだよ。
自分は私のことを知ってるのに、敵視している私は自分のことを知らないなんて、屈辱的だろう。
「あ、ごめんね、鹿島杏奈っていうの」
可愛く笑顔で答えるが、どこかぎこちない。それほど悔しかったのだろう。
「ふぅん、やっぱり知らないな。ごめん知り合いかなって思っちゃった。あ、そうだ、小田用事あったよね」
いきなり話をふられた小田は、どもりながら「え、まぁ」と答える。
「じゃあそろそろ行くね。ほんと疑い晴れて良かったー」
ヒラヒラと3人に手を振る。背中に感じる鋭い視線。こりゃまたなんかやられるな、と思いつつ笑いの止まらない小田に肘打ちをした。