狂気のお姫様

「でもさ、鹿島杏奈。イケメン侍らすのが好きだから、天の人たちのこと狙いそう」

天とは、屋上にいる人たち、そうつまり陽ちゃんたちである。一番上だから天と呼ばれているそうな。


「だったらどうなるの?」

「天の人たち使って、東堂をめっためたにするとか?」

「きゃあ怖い」

「さすがに東堂も天には敵わないでしょ。見たことないけど」

「んー、でも大丈夫だと思うよー」


私の呑気な言葉に、小田は「なんで?」と首を傾げる。


「知り合いいるし」

「あ、そうなの?」

「そそ。しかもさ、昼休みにカオリの仲間階段から落としたとこバッチリ見られて怒られた」

「え!見られたの!?やばい無理ウケる」

「つらかったー」

「あんたを怒るって強いなその人。ちなみに誰?」

「陽ちゃん…。如月陽介きさらぎようすけ」

「あー、如月さんね。陽ちゃんって…笑うわ。知り合いって聞いてびっくりしたけど良かったじゃん」

「まぁね。だから私に何かあったら陽ちゃんとこいってね」

「えー。イケメンと話せるのは嬉しいけど、殴られそうで怖いしやだなぁ」

「だいじょぶ。小田だし殴られても」

「なんの根拠」


しかし、バカ陽ちゃんがあの天然を見破れるかどうかだな。
意外と世話焼きだからなー、陽ちゃん。騙されたら私が陽ちゃんをめっためたにしてやる…と思いながら密かに拳を握った。


「ていうかコンビニで何買うの」

「ねり梅」

「渋い。まさか鹿島杏奈もねり梅のために帰られたとは思わないだろうね」

「ねり梅に負けた鹿島杏奈か。無理ウケる」


どんだけウケれば気が済むのだろう小田は。

コンビニに入り、ねり梅を何個かむしり取る小田。どんだけ買うんだよ。

ついでに自分も何か見てこう、とスイーツコーナーへ行くと、

「ぁ」

黒髪で切れ長の瞳の、綺麗な男の人がアイスコーナーで立ち止まっていた。

「東堂ー、なんか買う…の」

小田も気づいたらしい。私の後ろでピタリと止まった。

「あれ、長谷川蓮(はせがわれん)さんじゃない?」

「いや、私名前は知らないけど、今日陽ちゃんと一緒にいた気がする」

「じゃあやっぱ天だよ」

「やはりか」


小田と目を合わせる。うん、思うことはひとつだな。

立ち去ろう。

コソコソと音を立てずにレジへ向かおうとクルリと向きを変える、と


「わっ!!」

いきなり後ろからニュッと手が出てきて私の腕を掴んだ。


「ちょっと東堂!いきなり大きい声…だ…さ」


ギロリとこちらを睨んだ小田が、私の後ろへと視線を移す。


「あ、私帰るわ」

「待てこら小田」


帰ろうとした小田の腕をぎっちり掴み、絶対に逃がさないとでもいうように笑みを浮かべる。


「おい」

後ろから低音の声がして、それが私へと向けられていると気づく。ギギギ、と壊れた機械のように後ろへ向くと、やっぱり私の腕を掴んでいるのは長谷川蓮だった。なにこの状況!!
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