狂気のお姫様
【side 鹿島杏奈】


「えー!杏奈ちゃん屋上行っちゃったの?!」

「え、なぁに?」


目の前でびっくりしてる女達に、訳が分からないとでもいうように首を傾げる。


「屋上に人いたでしょ??」

「うーん、5人くらいいたかな?」

「何もされなかったの!?」

「?うん、何もされてないよ?誰か分からなかったし、出てけーって言われちゃったけど名前聞かれただけぇ」


そう言うと、女たちはまたもや驚く。

「普通は屋上行ったら殺されるんだよ!?しかも名前聞かれたの!?」

今度は私が驚いたふりだ。


「え!なに、どういうこと…?」

目を潤ませるのは私の特技。男も女も、私が可愛い天然女を演じていることに気づかない。あの天でさえも。


「あのね、屋上にいる人たちは天って言ってね、この高校で一番強い人たちなの。しかもかっこよくて、みんなの憧れ!」

「だから、あの屋上には近づかないし、もし入ったら男でも女でも無事では出られないって…」

「え、そうだったのぉ…!」


知らなかった、とでもいうふうに驚く。無知な女が可愛いことも今までで経験済みだ。


「じゃあなんで私無事なんだろぉ…」

と言うと、女たちは口々に声をあげる。


「やっぱり杏奈ちゃんは可愛いからだよ!!」

「絶対そう!!名前も聞かれたんでしょ?絶対気に入られたんだよ!!」


他の女もうんうんと頷く。

うん、そうだよ。私は気に入られたの。まず、気に入られないワケがないじゃない。

屋上に入った瞬間のことは覚えている。すぐに睨まれ、警戒された。

だけどあなたたちのことは知らないんですよアピールをすると、すぐに落ちた。羽賀 愁、アレは本格的に落とせそうだ。名前まで聞かれたし。それに佐々木 夕もいけそう。私のことバカにしてたけど、バカな女が男は好きでしょ。


「んー、そうなのかなぁ…分かんないけど、殴られなくてよかったぁ…」

「そんなことしたら私たちが許さないよ!」

「でも大丈夫!だって絶対杏奈ちゃん気に入られてるもん!」


『杏奈ちゃんと仲良くしてれば天に近づけるかも』なんて思ってるんでしょ?バレバレ。

だけどしょうがないから、少しは話しかけさせてあげてもいいかな。私のいい引き立て役になってくれてるワケだし。

あぁ、バカばっかり。これで天を手に入れたら怖いものなんてないわ。いや、そもそも私に怖いものなんてないんだけど。

あの東堂律も消せる。
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