狂気のお姫様
「この人は四ツ谷鳴さんっていうんだよ」
「で、隣の人は長谷川蓮さん」
取り巻きに教えてもらってる鹿島杏奈を、表情を崩さずにニコニコと見守る四ツ谷鳴は、どこか狂気的に感じて怖い。さっきのことがあったからか…?
「鳴さんと、蓮さんですね!」
そして鹿島杏奈の言葉に心臓が潰されそうになった。周りも同じことを考えたようだ。
いきなり下の名前で呼ぶか、普通。四ツ谷さん、長谷川さん、だろ。
私も心の中では、四ツ谷鳴、長谷川蓮と呼んでいるが、いざ呼ぶとなったら苗字にさん付けだぞ。
だけど四ツ谷鳴は微笑むだけ。長谷川蓮は最初から聞いてないかのように携帯をいじっている。
これでもお咎めなし。鹿島杏奈は彼らの特別かもしれない、という考えが誰しもによぎったであろう。
クイッと腕を引かれる。その犯人は小田だ。小田のほうをチラリと見て、コクリと頷く。逃げれるのは今だ。鹿島杏奈が四ツ谷鳴に話しかけてる今がチャンス。
今度こそバレないように少しずつ後ずさる。
幸いにも、さっきより人集りが大きくなっていて、再び呼び止められることはなかった。
あんなところにいると心臓がもたない。
「寿命縮んだわ」
「ほんとに。しかも友達とか言われたんだけど」
「東堂のこと律ちゃんとか言い出したな」
「私に取り入ってから天を掌握するってこと?」
なら私とは仲良くするはずだし害はない、のか?
「いやアレは…」
「?」
「そのあとに、仲良くなった天を使ってあんたを悪者にしたてあげる手だろ」
悩みの種はつきてくれないらしい。