狂気のお姫様
そしてそれは当たった。
私たちと同じように購買に顔を出したのは天の3人だった。陽ちゃんと、四ツ谷鳴と、佐々木夕。
「あれぇ!鳴さん??と、陽介さんに夕さんも!奇遇ですね!」
今声をあげたのは私ではない。そして勿論、小田でもない。
問題の鹿島杏奈だ。
「あぁ、誰かと思ったよ~。奇遇だねぇ」
ゆるりと返事を返す四ツ谷鳴に鹿島杏奈は矢継ぎ早に話しかける。
幸いにも、4人から私たちのことは見えていないため、奴らがどこか行くまでここで待機だ。
「いつもパン買ってるんですかぁ?」
「そうだよ」
「えー!健康に悪いですよぉ?」
「そうかな」
「私お弁当作ってるんです!今度作ってきますよぉ」
「遠慮しとくよ」
「えぇ、自信ありますよぉ!」
鹿島杏奈の話には全て四ツ谷鳴が答えているが、なんとなく躱されてる気がしないでもない。まぁそれに鹿島杏奈が気づいた様子はないが。
鹿島杏奈の後ろにいる取り巻きたちも、羨ましそうに鹿島杏奈を見ているが、私たちが鹿島杏奈の友達よ、とでもいうように近くに寄り添っている。
本当に茶番だ、と思いつつ冷めた目でみていると、
「あ、鳴さん!このお菓子オススメなんですよぉ!美味しいんです……っきゃっ!」
鹿島杏奈が、少し高いところにあるお菓子をとろうとし、バランスを崩して佐々木夕に倒れ込んだ。
「わっ、夕さんすみません…!」
明らかにわざと倒れたんだろうが、少女漫画としてはラブハプニングだ。佐々木夕は倒れることもなく、難なく鹿島杏奈を受け止めた。
「危な」
「すみませんー!倒れちゃうかと思いましたぁ!夕さんやっぱり男らしくて素敵です…」
少し頬を染めながらもじもじする鹿島杏奈は守りたい女の子そのもの。後ろにいた女達も「大丈夫?」「佐々木さんかっこいいです」と友達アピールをかかさない。
「は?それ見た目は軟弱そうに見えるってこと?」
しかしブリザードは急に吹いた。まぁ確かに今の言い方だと、女の子1人受け止め切れずに倒れる男だ、と言われてるとも受けとれる。
佐々木夕の様子に鹿島杏奈は少し戸惑ったフリを見せる。
「え…?私そんなこと言ってないですぅ…」
取り巻きたちも、一瞬固まったがうんうんと頷いた。