狂気のお姫様
「バカなの?」

こら。

夕の頭をパコンと叩く。

夕からバカって言われたら終わりだぞ。なぜならばこいつがバカだからだ。

「なんですか?」

幸いにも聞こえなかったようで、女は首を傾げる。


あぁ、無知ほど怖いものはないのに。この女は相当バカらしい。それとも、打算的な奴か。


「ま、俺達が誰なのかはクラスメイトにでも聞きなよ可愛子ちゃーん。とりあえず出て行こっか?」


一番女に優しい鳴が冷たく言い放つ。

が、

「屋上は皆のものだと思います!ひどいです…!」

とプクッと頬を膨らませる女。


「ありゃ、珍しい。鳴ちゃんに言い返した」


面白そうに女を見る夕に、女はまた首を傾げる。しかし世間一般から見ると可愛いだろうそれは、俺らにはあまり通用しない。それを分かっているのか、分かっていないのか、はたまた天然なのか。


「あんた、名前は」

「え、愁ちゃん?」


愁の方へ一斉に視線が向く。

愁が、女に名前を聞いた、だと?

こんなこと、まずない。

女は少しだけ頬を赤らめながら「鹿島杏奈(かしまあんな)です」と答えた。


「もういい、出ていけ」


愁は、もう用はないというふうに女から視線を外した。

女は、また首を傾げて、


「またほかの日にここに来ることにします!」


と言って屋上を出ていった。


「いや、そういうことじゃないんだけど」

鳴の言葉に賛同するように、蓮以外が頷いた。

そして、夕の目がカッ!と開かれる。


「それにしてもどうしたの愁ちゃん!!」

「そうだよ!お前が名前聞くなんて!天変地異か!」


夕と鳴の追求に、愁はカレーパンを頬張りながらめんどくさそうに答える。


「別に。他意はない」

「じゃあ何があるんだよ!あ、もしかしてあの子気に入っちゃった!?」

「おい気持ち悪いこと言うなカレーパン全部出る」

「でもそうとしか思えないじゃん!」

「知らね。お前らがとっとと追い出さないならだろ」


おいおいと心の中でツッコミを入れる。本当に天変地異かと思った。が、確かに、あのタイプは満足させれば終わるタイプなので、愁が言っていることもあながち間違ってはいない。


「なんだ、そういうこと。だってさ、どこまでバカなのか気になったじゃん?」

「ああいうタイプは話しててイライラする」

「あー、それは俺もだわ」


愁に同意すると、俺もパンを頬張った。


「まだ食べてんの。行くぞ」

「いや蓮待ておい」


しかし時間がないのも確かだ。蓮に呆れながらも、重い腰をあげる。


「授業めんどくせー」

「でも留年はもっとめんどくせー」

「同感すぎてめんどくせー」


屋上を出て、ダラダラ階段を降りると、なんだか騒がしい。ここらへんは誰も寄り付かないはずなのに。


他の奴も不思議に思ったのか、廊下を曲がろうとする、と


「追~いついたっ♪」


と、声がして、甘い香りがする。

そしてその瞬間目の前で女がふっとんだ。


「お、めっちゃ飛んだ」

【如月 陽介 end】
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