狂気のお姫様
恐怖を与えるように、ゆるゆる追いかけるのも疲れた頃、ここらへん人も少ないしそろそろいいか、と足を早める。


「追~いついたっ♪」


愉快そうに笑うと、右足を思いっきり踏ん張って、目の前を走る女を、飛び蹴りで蹴り飛ばした。


「お、めっちゃ飛んだ」

ズザザザザーーー!!と女は廊下を滑っていき、ありゃ摩擦で膝やったなー、と他人事のように考える。


「待って~」

と、おちゃらけたように女に近づくと、髪の毛をガシッと掴んだ。


「ぃ、痛い!!やめて!!お願い!!」


この期に及んで命乞いとは…。
なら先程の場で土下座した方がまだマシだったぞ。


「知らなーい」


長い距離を走ったせいか、恐怖のせいか、女は涙でぐちゃぐちゃの顔で私に懇願する。


「やめ、やめて…、あっ、鳴くん!!鳴くん助けて!!!」

「?」


女が私の後方へ叫び、私もそちらへと視線をやる。

すると、なんとまあ怪訝そうな顔をした5人の男。


「鳴くん!!!」


女は必死に、そして希望でも見つけたかのような顔で鳴とやらに近づこうとするが、髪の毛を握っている私のせいでそれは叶わない。


「えー、と、鳴さん…?もしかしてこの人の彼氏さん?」


やばーい。彼氏だったら面倒だなー、と思いつつも鳴がどれだか分からない。


「いや、違うけど」

答えたのは、たれ目で涙ボクロがある金髪の綺麗な男の人。あれが鳴さんか。ホストみたいだな。


「じゃあお友達…?」

「いや、違う。つかその女誰?」

「え…?」


鳴くんとやらが首を傾げると、女は驚愕の顔を浮かべた。


「鳴くん!!??マリだよ!!こないだ彼女にしてくれるって言ったじゃん!!一緒に寝たじゃん!!助けて!!!」

「…と、申しておりますが」

「知らなーい」



あぁ、遊ばれてたのかこの女。南無三。まぁ、自業自得じゃないかな、性格的に。


女は「なんで…?なんで…」と言いながら泣きじゃくる。だけどそんなことに同情する私ではないのだ。


「あ、じゃあこの人のこと知らないなら、この人ボッコボコにしても怒りませんか?」

「怒らない、けど、ボッコボコ…?」

「よし、マリとやら。許可がおりた。さぁ未知の体験へいってらっしゃ~い」

「え…?やめ、やめて!!!きゃぁぁあ!!!」


私は掴んでた髪の毛を思い切り引っ張って、女を階段の下へと放り投げた。
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