狂気のお姫様
ガンッ
バンッ
意図せず階下へ転がり降りた女は、うめき声をあげながらも息はしている様子。
「じゃ、もう喧嘩売りに来ないでね~」と、ヒラヒラ手を振るが、聞こえているかは分からない。
素晴らしい100倍返しだった、と我ながら賞賛してニヤリと笑うが、それに水を差すように、
「律(りつ)……?」
と私の名前を呼ぶ声がした。
声がした方を向くと、さっきの5人組。まだ立ち去ってなかったのか、と思いつつ、声をあげた人は誰かなと一人一人へと目を向け………
「げっ」
確信した。絶対コイツだ。
「お前、何してんだ」
「人違いです…誰ですか?」
まるで分からないというふうに、コテンと首を傾げると、目の前に来た男のコメカミがピクピクと動いている。
「違うの陽ちゃん!!これには訳があるの!!やり返しただけなの!!」
人違いです、と乗り切れるほど陽ちゃんはバカではない。が、乗り切れてほしかったという私の願望よ。
「なんか知らないけど呼び出されたの!そしたら自分の彼氏と寝ただのビッチだの冤罪ぶちかけられて、ほっぺをバチンッとやられたからやり返しただけなの!!不可抗力!正当防衛!だからジローさんに言わないで!!」
懇願するようにヒシッと陽ちゃんに抱きつく。
「ジローさんに言うならこのまま背骨折るから!!」
「いやバカ!!!やめろ!!お前ならやり兼ねん!!!」
「じゃあ言わない?」
「あー、うん、まぁ」
「それ絶対言うやつじゃん!!ごめん陽ちゃん死んで!!!」
「痛い痛い!!馬鹿力お前!!!言わねぇからやめろ!!!」
ゴチンッと頭をゲンコツで殴られて、腕を離して頭をさする。
「い、痛い…」
「バカお前!!バカ!!ほんとに背骨折ろうとしただろ!バカ!!」
「背に腹はかえられんと思って」
「バカ!!ほんとバカ!!!つか、やりすぎなんだよお前は!!!」
「ひぇ…」
陽ちゃんにガミガミ怒られていると、陽ちゃんの後ろから2つの顔がヒョッコリ現れた。
「陽介、知り合い?」
「…あー、まぁな」
「めちゃくちゃ可愛くない?さっきのやつと雲泥の差だな」
一人はさっきの鳴さんとやら。そしてもう一人は綺麗なブラウンにふわふわ頭の、可愛らしい顔の男の子だ。
『さっきの奴』とは私がさっき階下へ落としたやつか?と思いながらも、やはり褒められて嬉しいにこしたことはない。
「あ、どうも」
と、にへらと笑って感謝を述べる。
「で、お前はこんなとこで何をしてんだ」
ガシッと頭を捕まれ、上を向かされる。デカいんだよ陽ちゃんコノヤロウ。無駄に成長しやがって。
「この春入学してきたピカピカの1年生♡」
そう答えてウインクをぶちかますと、陽ちゃんは絶望したようにため息をついた。アッシュの髪がサラサラと揺れたのであった。