残念先輩って思われてますよ?


「はぁぁぁぁーー」


 注文が終わると、逢沢さんが特大の溜息をついた。え? どうしたの?

 私が訳を聞くまでもなく、逢沢さんが溜息の原因を口にする。


「璃~子~。聞いてー『廣田』先輩、だめだわっありゃ……」

 廣田先輩──あれ? 先週まで下の名前で呼んでなかったっけ?

 続けて彼女は廣田先輩に対する愚痴をこぼし始める。


「今週、一緒に仕事するまでは『ちょっと』はいいかなーって思ってたけどダメだねありゃ、一生独身決定だよ」


 ちょっと? 先週本気で廣田先輩を狙っていたのはどこのどいつだ? と問いたい……。


「取引先で、私がちょっと間違えちゃって『ごめんなさーい』って笑顔で言ったら取引先のおじさんも『いいよー笑顔が可愛い若い子だから許してあげる』『もうおじ様ったらー』なんてやってたら、廣田先輩に後で叱られちゃって~、『ミスを冗談めいて謝罪するな馬鹿!』って言われたの」


 うーん、まあ馬鹿って言葉は社会人としては使ってはいけないと思う。強い言葉はそれだけ相手を傷つけ委縮させてしまうことだってあり得る。でもどういう状況だったかまでは彼女の言い分だけで聞かされているのでわからないが、先輩が怒り得ることをしたとも十分考えられる。そもそもミスをしたことを反省しているのかな? 逢沢さん……。

 まあ取引先の男性を「おじさん」と呼んでいる辺りでなんとなく、お客様をもてなすという意識が低いのではと感じる。


「あとさー、他の男性社員の先輩達やおじさん達に『愛未ちゃん』って呼ばれてるから先輩も下の名前でどうぞって言ったら、また『馬鹿か?』って言われた~なんか腹立つ~」


 自分で言ったんだ……下の名前で呼べと、それも「どうぞ」って……、これは廣田先輩の気持ちが手に取るようにわかってしまった。
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