残念先輩って思われてますよ?
先輩、笑いすぎですよ?
「宗方さん、さっきの場面では名刺をもう少し胸より高い位置に持って」
「はい、すみません」
バディ制度による各先輩に付き従い仕事を覚え始めて五週目。いよいよ最後の週で廣田先輩とペアを組むと、私はさっそく色々と指導を受ける。
でも──。
やっぱり、廣田先輩からイヤな感じがしない……他の先輩達と違い「笑顔」の話はせず、ひたすらテクニカル面を叩き込んでくる。
「……はい、廣田です」
廣田先輩の業務用のスマホが鳴る。この展開ってもしかして。
電話を終えると廣田先輩から例の「外山さん」の名前が出た。やっぱり……。
また、この豪邸を拝むことになるとは……。
高い塀を見渡しながら先輩の後をついていく。
確か、先々週お邪魔した時は私の三週目担当の先輩を一瞬で切り捨ててしまった。でもあの時、確か廣田先輩を寄こせって言ってたような気が……。
前回と同じようにチャイムを鳴らし、使用人の方に案内され、同じ大きな机と椅子が並べられている飾り気のない部屋に通される。
しかし、前回とここから展開が違って来た。
廣田先輩は、使用人の方から「少し遅れるのでお掛けになってお待ちください」と言われたが、自分の座る位置の前に立ち椅子も引かずにひたすら、この屋敷の主が来るのを待つ。
二十分は待ったであろうか……。廣田先輩は一言もしゃべらず、直立不動で立っていて私もそれに倣い、ひたすらフラフラしないように意識を集中する。
ガチャ──扉が開き、外山さんが部屋に入ってくると同時に廣田先輩は挨拶と謝罪を口にして深々と頭を下げる。私もそれを見倣う。