残念先輩って思われてますよ?
「いや、丁重に断ったよ。俺がやりたいのは、お客様に心から満足して笑顔になってもらうことだ。業種が違って、接客の無い仕事はやりがいを見出せない」
その返事で、この人は出世やお金の為だけに働いていないことがわかった。
お客様に笑顔で取り繕って商品を売る。皆が当たり前のようにやっている仕事だが、彼はそこにひと手間もふた手間も労力を掛けて誠心誠意対応する。それが相手にはじんわりと伝わる。その積み重ねが廣田先輩の営業成績が良い理由なのだろう。
廣田先輩は腕時計で時間を確認すると、私に提案してくる。
「もう定時は過ぎたから帰りにこの街の駅近に団子屋さんがあるんだけどちょっと寄っていかない?」
私はこの部分に至っては世の女性と同じである。「甘いものに目がない」
「先輩の驕りですか?」とちょっと意地悪そうに聞くと「おう、もちろんだ」と更に返事が返ってきた。
慌てて冗談ですよと言っても「いや俺に任せろ」と頑なに引かなくなってしまった。あれ? 怒ってます……?
少し心配になったが、本人の顔はいつもより穏やかで明るい表情に見える。大丈夫──なのかな?
団子屋さんの前に来ると、廣田先輩が「どれにする?」と聞いてきたので私は一択で「みたらし団子」をお願いした。
廣田先輩は三色団子を頼み、団子を受け取るとすぐにそばの長椅子に二人で座り、団子を頬張る。