残念先輩って思われてますよ?

 それにしても怖かった──。人ってあんなに怒ることができるんだ。

 まだ、手の指先とかが震えてうまく動かない。自分で思っていたより恐怖を感じていたみたい。

 私と同期の男性社員は、その後、廣田先輩に感情が昂ぶっている相手への接し方を教えてくれる。特に厳しくとか優しくとかはではなく、あくまで私達、新社会人一年生が突然、同様のトラブルに直面しても自分の力で捌くことができる手段を私達のことを考えて教えてくれている。

 他の先輩だと、教えている時の自分に酔っているというか、優しくして感謝されるために教えているというか、なにか別の要素が混じっている気がするが、廣田先輩に至ってはそういったものをやはり感じない。

 ふと、先日の外山さんの言葉を思い出す。「見習うべき相手はちゃんと見定めるように」──その言葉の意味がこの数日、痛いほどわかるようになってきた。

 お昼にあわせて会社に戻り、弁当を食べることにした。

 普段は、私はこの近辺に路上販売しているお弁当屋さんや、少し歩いて大通りの高層ビルの公開空地上に出されているキッチンカーを利用して、そのまま近くの公園等、外で食べたりすることが多いが、今日は午前中の完成見学会で施主より「良ければ持ち帰って召し上がってください」とご厚意で準備頂いた仕出し弁当を持ち帰ったので、ミーティングルームで昼食をとることにした。

 お昼時間のミーティングルームは、会社の女性陣が占拠し、男人禁制のいわば聖域と化す。
私は最初の週に先輩方に「ご挨拶」をするために、顔を出して以来、二度目のこの魔窟への入室(アタック)となる。

 私は、「いつも外に体重が気になるから運動がてら外に出ていて」的なこれまで疎かにしていたこの部屋への入室の言い訳をでっち上げ説明する。

 無論、先輩方もそんな私の言い訳などお見通しだろうが、そこには触れてこない。あくまで表面化したものにだけ反応し、グレーなものはグレーのままとする女性特有のつき合いなので、その点は有り難い。

 ちなみに漫画やアニメ、小説で出てくるようなお局様的な人は存在せず、基本、皆仲良しだよねー的なノリで楽しくワイワイしている。私もこういう賑賑(にぎにぎ)しい感じは大変好きなのだが……。

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