残念先輩って思われてますよ?

「やっぱ、私は廣田先輩狙いかな~」


 廣田蒼佑(ひろたそうすけ)二十五歳、彼女がいるかは不明──逢沢さんはちゃっかりフルネームと年齢を聞き出していた。こういうところをみると彼女は営業職が天職なのかももと思わざるを得ない。しかし、遠回しに搦手で彼女の有無を聞き出そうとして失敗に終わったそうだ。まあ、あれほど顔立ちが整って、背も高ければフリーである確率の方が限りなく低いと思うけど……。


(まあ、私には縁のない話だけどね)


 逢沢さんにその後、いい人がいたのかをしつこく聞かれたが特にいなかったと何度も答えて彼女の興味がなくなるまで答え続けた。
 私は異性に興味がない訳ではない。

 いつか素敵な出会いをして、いっぱいお買い物や観たい映画、遊園地に行って……高校や大学時代に友達から聞かされた話をそのままに私も好きな人と一緒にやってみたい……。

 その前に今は早く一人前の社会人になることだ。

 他の人はどうか知らないけど、大学も近場だったし、この会社は自宅からは多少離れているものの充分、通勤圏内なので実家暮らしだが自分の収入が安定したら一人暮らしなんてものもしてみたい。

 逢沢さんは会社と駅をはさんで反対側の方にもうアパートを借りているそうで、早くも差をつけられた感がある。

 じゃあね、と駅の構内の改札口前で別れを済まして、買ったばかりのIC定期券で改札口を抜け、階段を上がりホームで電車を待つ。

 私は心配性なのか決まって、ホーム内にある売店を背にして線路の前には決して並ばない。

 電光掲示板の電車の到着時間を見ると、まだまだ時間に余裕がある。

 暇なので、スマホで友達のLIMEグループを開いて、今日の入社式での出来事を書き込んでいく。

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