残念先輩って思われてますよ?
先輩、最後ですよ?
午前中の外回りでは廣田先輩はいつも通り私に接してくる。
──そうだよね。廣田先輩は会社の「先輩」。あくまで仕事を新人に教えるために一緒に行動を供にしている関係。
わかっている。何をそんな当たり前のことを何度も頭の中で呪文を唱えるように繰り返しているの? まるで何かを言い聞かせるように……。
むしろ、おかしいのは私の方だ。いつもと違って先輩の目を見てうまく話せない。
どうしちゃったの? 廣田先輩のことをまさか意識してる? そんなわけないよね? だって相手は私のことをちょっと不器用な後輩だと思って接している。ちょっと表情が明るく見えるのも、あのお団子屋さんの前で「見飽きない」って言ったのも全部、私が「後輩」だから──だから考えちゃダメ。いつも通りの私を演じないと。
態度が一見、昨日迄の私の様に接し始めると、これまでいつも通りと思ってた廣田先輩の態度が少しだけ変わった気がする。
──何だろう……なにか優しい。
仕事でのおつき合いなのに、なぜだが先輩といると心が落ち着く。外回りだから廣田先輩と云えども男性──五月とはいえ多少汗ばむもの。なのに変な話だけどそれが「良い匂い」として私の鼻腔をくすぐってくる。
どうしちゃったのかな私──。仕事に集中できてない。社会人としてしっかり仕事を覚えて、バリバリ仕事をこなして後輩が出来たら「璃子先輩カッコいい!」っていわれるようなデキる女になるのが夢なのに……。
でもいつの間にか、いつもの素の自分に戻ることができた。
土地の調査のために、会社のチェックポイントが書かれた社内資料を印刷してノートのバインダーに綴じてそれを見ながらチェックをしてみる。
まずその土地の方角と面している道路の幅、次に土地がなるべく真四角になっているか、周囲の建物の高さや密度による日当たりや風通しの良さ、交通の便の良さ、地盤の強さ、災害に強い土地かどうか──まあこの辺は住宅地図や地形図、ハザードマップを見ればだいたい把握はできる。でも街の治安や雰囲気、周囲の環境などはどうしても現地に行って直接確認をしないと気づけないところが多い。
マニュアルに沿って、チェックをしていると廣田先輩が、声を掛けてくる。