それは麻薬のような愛だった
本編
中学に入るとそれまで単純だった感情も複雑化し、所謂思春期と呼ばれる年代に入る。
妙に大人びて背伸びを始め、おままごとの如く「カッコいい!好き!」などと簡単に言えていた事も言えなくなる。
そして異性を好きになり、想いが通じ合って交際に至ることがどれほど難しく、それがどれほど奇跡に近いものかを目の当たりにする。
杜川雫も、もれなくそう思っていた。
というのも、彼女もまた幼い頃からずっと憧れていた幼馴染に恋をしていたから。
けれどその相手は今や雲の上のような存在になってしまった。眉目秀麗、頭脳明晰、文武両道…彼を表す言葉はいくらでも並べられる。
想い人である天城伊澄は、それはそれはモテる男だった。
小学生の頃は「格好いい」「素敵」と騒ぐ他の女子と一緒に彼に憧れを抱き眺めていられるだけで十分だった。
けれどいつだったか、中学に上がって初めて伊澄に彼女が出来たと知った時、心臓を鷲掴みされたような激痛が走りその存在を妬ましいと思った。
けれどそれと同時に、人気者でいつも人の中心にいる伊澄と地味で目立たない存在の自分では到底釣り合うはずがないとも思った。
例えそれが、幼稚園の時に「将来は雫ちゃんと結婚する!」と言ってくれた幼馴染であっても、一度開いてしまった距離は埋まらない。
「ねえ、また天城くん後輩に告白されたって」
「また?すごいね、もう新入生の通過儀礼みたいになってるじゃん」
中学三年にもなると、雫と仲のいい真面目で大人しい女子達は最早伊澄の事は芸能人かのように話していた。
自分達のような目立たない女があの伊澄に相手にしてもらえるはずがないと、土俵に立つのすら諦めていた。
事実、伊澄の彼女と噂されるのはいつも一軍と呼ばれるグループに族する可愛くて目立つ女子だ。
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