それは麻薬のような愛だった
なんで。どうして。
ハアハアと息を荒げながら、止めどなく襲ってくる吐き気に苦しみながら雫は混乱していた。
一緒にいて幸せなのに。ちゃんと好きなのに。
これまで何度かキスをした後も、こうした違和感はいつもあった。
腹の中に燻る言いようのない気持ち悪さが怖かった。
信じたくなかった。
胸に颯人の手が触れた瞬間、脳裏に浮かんだのはーー伊澄の顔だった。
「…っ、そんな、嫌…!」
声を出せば、また吐いた。
もう吐くものがなくなって胃酸だけが出ても止まらなかった。
心配した颯人が救急車を呼んで病院へと運ばれ、そこで点滴を打たれながら遠のく意識の中雫は確信した。
ーーもう自分は、誰にも抱かれる事は出来ないのだと。
体調が回復して落ち着いた頃、雫は颯人に別れを切り出した。
何度も理由を尋ねられたが、答えなかった。
答えられるはずがなかった。
そうして掴めそうだった幸せを自分から手放した。
優しい颯人を巻き込みたくなかったから。
その後も雫は何度も颯人の復縁を断り続け、次第に連絡が来なくなり安心した。
別に異性が完全にダメになった訳ではなく、友人として付き合う事に何の問題もなかった。
けれど身体の触れ合いだけは、想像するだけでも無理だった。
フラッシュバックしては、何度か吐いた。
そうして自分の身体と漸く向き合えるようになった頃、季節は冬に移り変わりあっという間に年が明けた。
雫は成人式に出席するため、地元に戻ってきた。