それは麻薬のような愛だった
「ねえあれ…もしかして天城くんじゃない?」
友人の内の一人が声色を高くして言う。
そうして全員が向けた視線の先には一人飛び抜けて目立つ男が居た。
「うわ〜ますます男前に育ってるよ…」
「スーツ姿かっこ良すぎじゃない!?」
「天城くん、K大の法学部にいるんでしょ?あのルックスで将来が確約されてるなんて優良物件過ぎるよね」
「天は二物も三物も与えるってね」
「もう眼福…今日来て良かった」
口々にその男を賛美する中、雫も同じように視線を向けていた。
「うん…本当にかっこいいね」
昔より少し伸びた髪も、シミひとつない綺麗な肌も高い鼻筋も流れる切れ長の瞳も、どこまで伸びるんだと言いたくなるような長い脚もーー天城伊澄を形造る何もかもが輝いている。
それだというのに、かつては確かに抱いていたはずの彼を見るだけで心が躍るような喜びが、今は湧いてこなかった。
その姿を目にすれば嬉しいしドキドキもする。
けれど、それだけだった。
伊澄は会場に現れた瞬間、かつての友人や煌びやかな女子達にあっという間に囲まれた。
そこに割って入ろうとなどと思う猛者でもいない限り、鉄壁ともいえる壁のような人だかりが出来上がっていた。
「まるで芸能人にでも会ったみたいだよね」なんて冗談を言う友人と一緒に笑っていると、不意に伊澄の目がこちらに向いた。