それは麻薬のような愛だった
雫もそんな彼女達に同調し「そうだね」なんて笑うが、心の内は伊澄への諦められない想いでいっぱいだった。
それが急に動き出したのは、その夏の事だった。
夏休みも中盤に差し掛かりその日も塾の夏期講習に通ったその帰り道、雫はあまりの暑さにアイスでも買おうと家の近所のコンビニに立ち寄った。
そこでたまたま同じようにそこに来ていた私服の伊澄と出会った。
同じ住宅街で家が数軒隣である二人は学校でこそ絡みはないが、こうして校外でエンカウントする事はそこそこあった。
「あ、いっちゃん」
昔からの呼び名で呼べば、すっかり成長して精悍となった顔が雫を向く。
「おー」
素っ気ない返事だが、それで良い。
元々伊澄は少々気難しく愛想が良いタイプでは無いので、返事を返してくれるだけマシだ。
「いっちゃんもアイス買いにきたの?今日も暑いねえ」
これにしよ、と独り言を言いながらお気に入りのアイスを手に取ると、横から伊澄からの視線を感じる。
「なに?選ばないの?」
「お前なんで制服なんだよ」
ラフな格好の伊澄と対称に雫は夏の制服を規定通りしっかり着用している。
昨年までは吹奏楽部で夏休みも部活のため制服を着て学校に通っていたが、それも引退している筈の今になってと怪訝に思ったのだろう。
「さっきまで塾の夏期講習行ってたの。制服の方が楽だし無難かなって」
「へー」