それは麻薬のような愛だった
自分で尋ねておきながらさして興味も無さげにアイスの棚を覗いて手を伸ばし、馴染みの大きく口を開けた少年がプリントされているものを手に取った。
やっぱりそれ選ぶんだ、と雫は内心思いながら会計へ向かう。
意外とあまり冒険しないタイプの伊澄は昔からお気に入りが変わらない。食べ物も、服のブランドも、文房具も。
会計を終えた雫は外に出ると直ぐにアイスの封を開けて口に含んだ。
じとりとした湿気のある嫌な暑さのせいで外に出てまだ数秒だというのにもう汗が滲み出る。
通っている公立中学の制服があまり通気性に優れたものでないせいか、はたまたそれをゆうに超えてくる暑さのせいなのか、熱気の籠った服の中は酷く不快に感じた。
せめて少しでも空気を通そうと胸のリボンを外しブラウスのボタンを2つほど開けて胸の辺りの服を摘んでパタパタとしていると、会計を終えたのか伊澄も店から出てきた。
伊澄は雫を一瞥すると特に何も言うでもなく家に向かって歩いていった。
少し遅れて、雫もそれに続いて歩き出す。
家が近くなので必然的に同じ方向に向かって歩くことになるが、並んで歩く事はない。
小学生の時は隣に立って色々と話しながら帰ったものだが、もうそんな関係ではない。
今や伊澄の中で、自分などその辺のモブくらいの感覚でしかないだろう。
ーーそれでも。それでも雫は昔と変わらず伊澄が好きだった。
だからどうしても話したくなって、勇気を出して前を歩く背中に向かって声をかけた。