それは麻薬のような愛だった
「バイバイ」
なんて事のない挨拶に、初めて違和感を感じた。
この関係も潮時かと思い始めていた頃で丁度良かったはずなのに、なぜか言い得ぬ不快感を感じた。
大学に進んでからも基本的には変わらない。
授業もそれなりに難なくこなせたし、言い寄る女もこれま出た大差無かった。
けれど何処か背中に穴が空いたような、ぽっかりと空いた何かをいつもどこかに感じていた。
原因は分からないし、日常生活にはなんら支障はない為無視して過ごしていた。
二十歳を迎えた年の冬に地元に帰った際、その原因を理解した。
成人式など興味の欠片も無かったが、母親に偶には帰ってこいと半ば脅され帰省してみれば嬉しそうに1枚の写真を見せてきた。
「見て伊澄!可愛いでしょう」
母親のスマホに写っていたのは久しぶりに見る女の顔だった。
「この間たまたま前撮りの時に会ってね。思わずお願いして撮らせてもらったの」
女の子が欲しかったのだと昔からしきりに言っていた母は、仲の良い同僚の娘の事をいたく気に入っていた。
紅い振袖に身を包み恥ずかしそうに笑う雫は、確かに昔より垢抜けていた。