それは麻薬のような愛だった
「雫ちゃんも成人式に参加するみたいで帰省しててね、昨日わざわざうちにお土産まで持ってきてくれたのよ。本当に可愛いらしい子!」
お土産どころか連絡ひとつ寄越さないあんたとは大違いね、と母親は鼻で笑った。
「うるせえわ。大学行ったらこんなもんだろうが」
「まあそうなんだけど。杜川さんも娘があんまり帰ってこないって寂しがってたしね」
母親の言葉は意外だった。
雫は母親と仲が良く、その母親がとても心配性なのも知っている為頻繁に顔を見せに帰っていると思っていた。
「せっかく帰ってきたんだし、伊澄も参加してきたら?」
そう言う母親の手にはオーダーメイドのスーツが握れられており、拒否しようが無理矢理行かせるつもりだったんじゃねえかとちょっとした口喧嘩まで発展した。
口喧嘩に負けたわけでは決して無いが、渋々成人式には参加した。
会場に着くや否や周りを要塞かと言わんばかりに囲まれ早速面倒くさくなって遠い目をした時、その場にいた雫と目が合った。
写真とは別の髪型をしており、自分を見つけるなり笑顔で手を振ってきた。
「!」
雫の笑顔を見た瞬間だった、胸の辺りに生暖かいものを感じたのは。