それは麻薬のような愛だった
「でもその男、最近になってお姉ちゃんに連絡してきたんだよ。ママ知らなかった?」
「何それ、初耳よ」
「随分と勝手な男ねえ」
女達の自由な会話に父親含めテーブルに座る男性陣はどこか居心地悪そうにしていた。
そんな中でも伊澄は鋼の心臓を発揮して提供された料理に手を伸ばしていたのだが、従姉妹の発した発言にピタリと動きを止めた。
「本当だよ。お姉ちゃんがいつまでも引き摺ってるとでも思ったのかな。ーー別れた女がいつまでも自分を想ってくれてるなんてさ、とんだ思い込みだよね」
鈍器で頭を殴られたらこんな感じなのだろうか、無傷なはずなのに何故か酷い痛みを感じた。
「確かに別れてから大事だった事に気付かれてもねえ」
「そうそう!こっちはサッサと吹っ切れて次に行ってるんだっつーの!」
「男の傷は男で癒せってこれ定石よね〜」
ヒートアップする女達の会話の中の言葉の弾丸が次々とクリティカルヒットしていき、心なしか気分が悪くなってきた。
伊澄は何気ない風を装いながら席を立ち、会場を抜けて手洗い場へと向かった。