それは麻薬のような愛だった
『いっちゃん?どうしたの、突然電話なんて』
珍しいねと言う雫の声と一緒にその後ろから騒音が聞こえる。
「今外か」
『そうだよ。あ、五月蝿い?私の声聞こえる?』
喧騒の中でも、雫の鈴を転がしたような声だけはハッキリと聞こえる。
今何処だ。誰と一緒にいる。
口になど到底しないが、頭に浮かぶのはそんな言葉ばかりだった。
『今友達とモールに来ててね、待たせてるからあんまり話せないんだ。何か用かな?』
友達、そう聞いて安心する自分が居た。
…これはもう、アウトだろ。
「明日空いてるか」
そう聞けば、一瞬沈黙が流れた。
『…うん、空いてるよ』
「じゃあ昼頃そっち行く」
『分かった。待ってるね』
それじゃあと言って電話は切られた。
スマホを懐に仕舞うと、伊澄は近くの壁に背中を預けて天を仰いだ。