それは麻薬のような愛だった
シャワー終えて戻れば目を覚ましていた雫は何も覚えておらず、とにかく早く帰ろうとしているのが見て取れた。
本人が気付いているかは不明だが、伊澄の家に来た時は雫はいつも必ず早く去ろうとする。
それがずっと気に入らなかったが、原因を考えれば当然の事で雫は自分が好かれているなどと夢にも思わず唯のセフレの分際でと卑下している。
もう少し居て欲しいと素直に口にすればいいものをそれすら言えず、追いかけてキスをしても受け入れはするが気持ちは伝わらず、雫はさっさと帰って行った。
これが悪手だったと気付くのはその後直ぐだった。
悪い事は続くもので週明けには長期の出張が入り、それがまさか延長を重ねて一ヶ月にも及ぶとは思いもしなかった。
その間何度か連絡をしようとしたが、何を言って良いのか分からず文面を打っては消しの繰り返しで、結局戻ってくるまで連絡は入れなかった。
話さなければならない事、贖罪のためにもやらねばならないことは山ほどあるが、ひとまず今は雫に会ってあの小さく柔らかな体を抱き締めたかった。
鈴を転がしたようなあの甘くも安心する声を聞いて満たされたかった。