それは麻薬のような愛だった
恐らく雫は妊娠している。しかも自分を子供を。
それなら全て納得がいく。
それにそうするように仕向けたのは自分だ。
クソみたいな話だが、伊澄が最初に思ったのは「勝った」だった。
雫の心が手に入らないならば外堀を埋めて仕舞えば良いと本気で思っていた。
壊れてしまった心は戻らない。過去は消えない。
考え抜いて至った結論はこのまま四方を塞いでいっそ自分だけしか見れないようにしてしまうといった、狂気とも言える行動だった。
どうせ新しい道へ進めないならば、このまま自分の中に堕としてしまえばいい。
身を焦がすほどの愛と失う辛さを同時に知った伊澄は、雫への盲目的な想いを長い年月の間に拗らせ、既に正常な判断を失っていた。
聡明な伊澄は、とうに自分がおかしくなっている事も同時に理解していた。
兎に角今は雫の体調優先だ。
世話をしようにも足りないものが多すぎる。
一度冷静さを取り戻す為にも外に出た。
そうして買い物を済ませて家に戻った時、目に飛び込んできた雫の涙に濡れた顔に心臓が止まりそうになった。
「雫…なんで泣いて…」
「違、これは、」
必死に誤魔化そうと顔を隠す姿に、消えかけていた理性が戻ってくる。
ーーまた傷付けた。
これまで一度だって涙を見せた事のない雫が目を真っ赤にするほど泣いている。
競り上がってくる後悔の波に飲まれそうになる。
「ごめん」