私のことは忘れてください、国王陛下!~内緒で子供を生んだら、一途な父親に息子ごと溺愛されているようです!?~【極上シンデレラシリーズ】
■第一章■
「リア! ちゃんと掃除はしたの!? 隅に埃(ほこり)が落ちているじゃない!」
「リア! 昨日の舞踏会のせいでとても疲れたわ! 足を揉(も)んでちょうだい!」
朝からぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー騒ぐお継母(かあ)さまとお姉さまの声に、私は無表情でうなずいた。
「わかりました」
箒(ほうき)でササッと隅の埃を掃き、それが済むと今度はソファに座っているカトリーヌお姉さまの足を揉み始める。
「昨日も大変だったのよぉ」
私に足を揉んでもらいながら、カトリーヌお姉さまが大げさにのけぞってみせた。
「パトリックさまとヴァレリーさまがわたしを取り合って、あわや喧嘩になってしまうところだったの。わたしのために争わないでほしいのに……でもしょうがないわよね。わたしの魔法が美しすぎるのがいけないんですって!」
ヨヨヨ、とお姉さまが泣き真似をしながら体をくねらせる。
すると、目の前にパッとピンク色の花が咲いた。これはお姉さまが使える、花を咲かせる魔法だ。
「わたしもリアみたいに〝無魔法〟だったら、こんな争いに巻き込まれなかったのにな~」
言いながら、お姉さまは私を見てクスッと笑った。
……もちろん私はわかっている。
これは自虐に見せかけた私への自慢なのだ。
お姉さまと違って舞踏会に行けない私に対して。そして〝無魔法のリア〟に対して。
ここ、ウィロピー男爵家にはふたりの娘がいる。
カトリーヌ・ウィロピー。今年十七歳。お継母さまが産んだ、私と半分だけ血の繋(つな)がった姉。
そしてリア・ウィロピー。今年十六歳。私だ。
元々我が家には私しか子供がいなかったのだけれど、私が七歳の時、母が病気で他界。
するとお父さまは、すぐさま我が家にお継母さまと、お継母さまが産んだカトリーヌお姉さまを連れてきたの。
カトリーヌお姉さまは私よりひとつ年上。つまりお父さまは、私が生まれる前からお継母さまと不倫をしていたってことなのよ。
そして男爵夫人となったお継母さまは元平民だった。娘のカトリーヌお姉さまも平民。
そのせいなのか、それとも他に理由があるのか、ふたりはとにかく私のことが気に入らないようだった。
物置に閉じ込めたり、食事を抜いてみたり、使用人みたいにこき使ったり……。
まぁ継(まま)子(こ)いじめはよくある話よね。
でもそれをお父さまは見て見ぬふりだった。
元々家にほとんどいないお父さまのことはあまり好きではなかった。その上、不倫したあげくお継母さまたちから助けてくれなかったせいで、一気に嫌いになったのは言うまでもない。
とはいえ私はか弱いタイプではなかったし、見かねたウィロピー男爵家の使用人たちが味方になってくれたから、うまいことやり過ごしてきたと思う。彼らには本当に感謝してもしきれないわ。
お姉さまの足を揉みながら、私はさりげなく言った。
「これが終わりましたら、私は豚小屋で豚たちのお世話をしてきます」
私の答えに、カトリーヌお姉さまがバカにしたように笑う。
「ふふっ。それがいいわ。だってリアには豚がお似合いだもの。ねぇお母さま?」
「まったく汚らしいこと。豚小屋に寄った後は本邸には来ないでちょうだい! 臭いが移るわ!」
「はいお継母さま」
私は淡々と頭を下げた。
それから足揉みを終わらせ、静かに居間から退出する。
…………よし! 今日も森に行く時間を手にいれたわ!
ドアを閉めたところで、私は小さくぐっと拳を握った。
それからスキップしだす。
ふふふ。あのふたり、私が「豚小屋に行く」って言えばそれ以降は決して近づいてこないのよね。豚さんの臭いが嫌なんですって。
そりゃまぁ確かに豚さんは生き物だししょうがないけれど、それでもお継母さまたちが思っているよりはずっと綺麗なんだけどね……。
まぁ、私にとっては都合がいいわ。
私は準備を済ませると、すぐさま豚小屋に向かった。
それからせっせと豚さんたちに餌をあげているお世話係のドニおじさんに声をかけた。
「ドニおじさん! 今日もお願いしてもいい?」
気づいたおじさんが、欠けた歯を見せながらにっこりと笑う。
「おうとも! 任せてくれお嬢さま。あのケバい奴らが来たら、肥料でもまいて追い払っときやすぜ! まぁまず来ないでしょうけど!」
「ありがとう! 助かるわ!」
「それじゃ、今日も森に行くんで?」
「ええ! アデーレおばあちゃんのところに! 確か、うちでも風邪薬が不足していたよね?」
「ああ、あと、ビルの奴がこの間捻挫しちまって」
「大変! じゃあ捻挫に効く貼り薬も作ってくるわね!」
「ありがとうごぜぇますお嬢さま! それじゃアデーレさんによろしく!」
ひらひらと手を振るドニおじさんに見送られながら、私は足首まで隠れるローブをまとってウィロピー男爵家の敷地を出た。
それから誰もいないのを確認して、小声で囁く。
「うさぎさん、今日も力を貸してくれる?」
そう言った途端、あたりにポゥ……といくつもの光が浮かび始めた。
光は、ちょうど手のひらに乗るくらいのふわふわの白い玉だ。他にふたつ、ピンクと水色のもある。
かと思うと、そこにぴょこんと小さな長い、うさぎのような耳がそれぞれ生えてくる。そしてふわふわの丸い胴体に、黒真珠のような丸くてつぶらなおめめが浮かび上がった。
「リア! 昨日の舞踏会のせいでとても疲れたわ! 足を揉(も)んでちょうだい!」
朝からぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー騒ぐお継母(かあ)さまとお姉さまの声に、私は無表情でうなずいた。
「わかりました」
箒(ほうき)でササッと隅の埃を掃き、それが済むと今度はソファに座っているカトリーヌお姉さまの足を揉み始める。
「昨日も大変だったのよぉ」
私に足を揉んでもらいながら、カトリーヌお姉さまが大げさにのけぞってみせた。
「パトリックさまとヴァレリーさまがわたしを取り合って、あわや喧嘩になってしまうところだったの。わたしのために争わないでほしいのに……でもしょうがないわよね。わたしの魔法が美しすぎるのがいけないんですって!」
ヨヨヨ、とお姉さまが泣き真似をしながら体をくねらせる。
すると、目の前にパッとピンク色の花が咲いた。これはお姉さまが使える、花を咲かせる魔法だ。
「わたしもリアみたいに〝無魔法〟だったら、こんな争いに巻き込まれなかったのにな~」
言いながら、お姉さまは私を見てクスッと笑った。
……もちろん私はわかっている。
これは自虐に見せかけた私への自慢なのだ。
お姉さまと違って舞踏会に行けない私に対して。そして〝無魔法のリア〟に対して。
ここ、ウィロピー男爵家にはふたりの娘がいる。
カトリーヌ・ウィロピー。今年十七歳。お継母さまが産んだ、私と半分だけ血の繋(つな)がった姉。
そしてリア・ウィロピー。今年十六歳。私だ。
元々我が家には私しか子供がいなかったのだけれど、私が七歳の時、母が病気で他界。
するとお父さまは、すぐさま我が家にお継母さまと、お継母さまが産んだカトリーヌお姉さまを連れてきたの。
カトリーヌお姉さまは私よりひとつ年上。つまりお父さまは、私が生まれる前からお継母さまと不倫をしていたってことなのよ。
そして男爵夫人となったお継母さまは元平民だった。娘のカトリーヌお姉さまも平民。
そのせいなのか、それとも他に理由があるのか、ふたりはとにかく私のことが気に入らないようだった。
物置に閉じ込めたり、食事を抜いてみたり、使用人みたいにこき使ったり……。
まぁ継(まま)子(こ)いじめはよくある話よね。
でもそれをお父さまは見て見ぬふりだった。
元々家にほとんどいないお父さまのことはあまり好きではなかった。その上、不倫したあげくお継母さまたちから助けてくれなかったせいで、一気に嫌いになったのは言うまでもない。
とはいえ私はか弱いタイプではなかったし、見かねたウィロピー男爵家の使用人たちが味方になってくれたから、うまいことやり過ごしてきたと思う。彼らには本当に感謝してもしきれないわ。
お姉さまの足を揉みながら、私はさりげなく言った。
「これが終わりましたら、私は豚小屋で豚たちのお世話をしてきます」
私の答えに、カトリーヌお姉さまがバカにしたように笑う。
「ふふっ。それがいいわ。だってリアには豚がお似合いだもの。ねぇお母さま?」
「まったく汚らしいこと。豚小屋に寄った後は本邸には来ないでちょうだい! 臭いが移るわ!」
「はいお継母さま」
私は淡々と頭を下げた。
それから足揉みを終わらせ、静かに居間から退出する。
…………よし! 今日も森に行く時間を手にいれたわ!
ドアを閉めたところで、私は小さくぐっと拳を握った。
それからスキップしだす。
ふふふ。あのふたり、私が「豚小屋に行く」って言えばそれ以降は決して近づいてこないのよね。豚さんの臭いが嫌なんですって。
そりゃまぁ確かに豚さんは生き物だししょうがないけれど、それでもお継母さまたちが思っているよりはずっと綺麗なんだけどね……。
まぁ、私にとっては都合がいいわ。
私は準備を済ませると、すぐさま豚小屋に向かった。
それからせっせと豚さんたちに餌をあげているお世話係のドニおじさんに声をかけた。
「ドニおじさん! 今日もお願いしてもいい?」
気づいたおじさんが、欠けた歯を見せながらにっこりと笑う。
「おうとも! 任せてくれお嬢さま。あのケバい奴らが来たら、肥料でもまいて追い払っときやすぜ! まぁまず来ないでしょうけど!」
「ありがとう! 助かるわ!」
「それじゃ、今日も森に行くんで?」
「ええ! アデーレおばあちゃんのところに! 確か、うちでも風邪薬が不足していたよね?」
「ああ、あと、ビルの奴がこの間捻挫しちまって」
「大変! じゃあ捻挫に効く貼り薬も作ってくるわね!」
「ありがとうごぜぇますお嬢さま! それじゃアデーレさんによろしく!」
ひらひらと手を振るドニおじさんに見送られながら、私は足首まで隠れるローブをまとってウィロピー男爵家の敷地を出た。
それから誰もいないのを確認して、小声で囁く。
「うさぎさん、今日も力を貸してくれる?」
そう言った途端、あたりにポゥ……といくつもの光が浮かび始めた。
光は、ちょうど手のひらに乗るくらいのふわふわの白い玉だ。他にふたつ、ピンクと水色のもある。
かと思うと、そこにぴょこんと小さな長い、うさぎのような耳がそれぞれ生えてくる。そしてふわふわの丸い胴体に、黒真珠のような丸くてつぶらなおめめが浮かび上がった。