寵愛の姫 Ⅲ【完】


「………そうか。」



寂しげな表情を浮かべたお父さんが、暁へと、また頭を下げて、椅子から立ち上がる。



「私は、これで失礼します。」



一礼したお父さんが、足早に部屋の中から出て行く為に、歩き出す。



「っ、あなたっ…。」



それに続くのは、お母さんで。






慌てて立ち上がり、部屋の中から出て行くお父さんの背を追い掛ける。







ーーーー一切、私を見る事なく。







それさえ、もう、寂しいとは、思わない。





だって、私には、暁がいるから。







黙って、お母さんを見送る。



「………………1人だけ、逃げ出すのね…。」



お母さんの後に続くのは、残っていた“彼女”で。



「………茉莉。」

「………。」




扉に手を掛けた茉莉がゆっくりと振り返り、怖いぐらいの無表情で、名前を呼んだ私へと視線を向けた。
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